NEWS / REPORT - 2018.5.31

「南」のアートはどうあるべきか? ブラジルで国際会議
「南大西洋の共鳴」が開催

今年4月、ブラジル北東部の古都サルバドールでゲーテ・インスティトュート主催の国際会議「南大西洋の共鳴」が行われた。その様子をカンファレンスに出展者として参加したブラジル在住の写真家・仁尾帯刀がレポートする。

文=仁尾帯刀

リリア・シュワルツ教授による講義「大西洋における黒人奴隷のイメージ:他者の他者」 Photo by Taylla de Paula

リリア・シュワルツ教授による講義「大西洋における黒人奴隷のイメージ:他者の他者」 Photo by Taylla de Paula

多彩な顔ぶれが揃った3日間

 中南米とアフリカに共通する社会問題や文化交流の今後、それに対してヨーロッパがいかに関わるべきかについて論じる国際会議「南大西洋の共鳴」が、今年4月、ブラジル北東部の古都サルバドールで行われた。主催者のゲーテ・インスティトュートは、世界92ヶ国、158ヶ所で運営するドイツの国際文化交流機関で、中南米、アフリカにも多数支部を構える。支部の一つがあるサルバドールは、世界で奴隷制がもっとも遅くまで続いたブラジルの最初の首都で、西アフリカの文化の影響が色濃く残る街だ。

 この3日間のカンファレンスに集ったおよそ70人の招待者の顔ぶれは多彩を極めた。地元サルバドールやサンパウロのキュレーターをはじめ、ガーナやコロンビアのアーティスト、カメルーンのジャーナリスト、ウルグアイの社会学者、コスタリカの音楽家、ナイジェリアの巫女、アンゴラの建築家、ドイツの編集者、南アやトルコの歴史学者、オランダの民族博物館ディレクターなどだ。イベントは、サンパウロ大学の文化人類学者リリア・シュワルツによる講義「大西洋における黒人奴隷のイメージ:他者の他者」で幕を開けた。シュワルツは、奴隷を描いた絵画や写真を通じて当時のブラジル社会やアーティストの奴隷制に対する眼差しを紹介。グループ・ディスカッションでは、「融合のためのアート」「精神を脱植民地化するには」あるいは「南大西洋の歴史修正」など、参加者に共通する問題意識について議論が展開された。

グループディスカッションの様子 Photo by Taylla de Paula

「南」の視点からの美術表現とその紹介

 レクチャーとディスカッションに加えて、参加アーティストによるパフォーマンス、展覧会と演奏も披露された。ブラジルのアニータ・エクマンは、過去の黒人奴隷にあてがわれるように、ポルトガル人に奴隷化された先住民女性の存在に焦点を当てながら、いまなお続く黒人と先住民の虐げられた現状を描いたパフォーマンス作品《トゥピー・ヴァロンゴ》を初公開。ストリートでのスナップを手法とするベルリン在住のナイジェリア系写真家アキンボデ・アキンビイは、ナイジェリアのラゴス、オショボそしてドイツのカッセルで撮影した作品6点を展示。南アフリカのミュージシャン、ネオ・ムヤンガはギターの弾き語りでイベント閉幕のひと時を包み込んだ。

アニータ・エクマンによるパフォーマンス《トゥピー・ヴァロンゴ》。「トゥピー」とは先住民の一部族の名称で、​「​ヴァロンゴ」とは約90万人の奴隷が上陸した​リオの元埠頭(昨年ユネスコ世界遺産に指定された) Photo by Taylla de Paula
展覧会「南大西洋の共鳴」展示風景。​​​​​​15組のアーティストが作品を展示・発表した Photo by Tatewaki Nio

 展覧会のオープニングにあわせて、ウェブマガジン「C & América Latina(コンテンポラリー・アンド・アメリカ・ラティーナ)」も発表された。同サイトは、ifa(ドイツ対外文化交流研究所)が2013年に刊行したアフリカやディアスポラ(元の国家や民族の居住地を離れて暮らす人々)の現代アートを紹介する媒体『C&』のラテンアメリカ版だ。近年、世界のビエンナーレでアフリカ系アーティストの作品が紹介される機会が増えているが、ラテンアメリカでは、いまだアフリカ系ディアスポラのアーティストに与えらえる発表の場が少ない。ちなみにブラジルで黒人系アーティストが初めて視覚芸術の博士号を取得したのは2010年のことだった。主として中南米のアフリカン・ディアスポラのアートを可視化していくのが「C & América Latina」の目的だ。

ウェブマガジン「C & A​mérica Latina」​トップページ​​

21世紀の道しるべとなりうるか?

 今後3年間に渡って展開されるプログラム「南大西洋の共鳴」のキックオフイベントとして開催されたこのカンファレンス。ではこれから何が行われるのだろうか? それは今回の、そして今後招聘される参加者たちのネットワークから生み出される提案から、ゲーテ・インスティトュートが採用した企画に予算が投じられて制作される。その結果は2020年のダカール・ビエンナーレで発表される予定だ。

 今世紀、欧米はこれまでの圧倒的な影響力を失い、世界は多極化すると唱える論説は多い。新たな秩序が生まれるのか、混沌とした状態が続くのかは定かでない。ヨーロッパ有数の文化財団による本企画で制作される学問と芸術のプロジェクトから、南大西洋地域の道しるべとなりうる表現が生まるか、期待したい。

ガーナの映像作家ジョナサン・ドッツェによる360度VR映像《パンドラ》。ギリシャ神話の一話をガーナの首都アクラで描いた ©​ Jonathan E. Dotse