青森県立美術館で体感する春の光。「Aomori Spring Sprout展 ―青森 春に芽吹く光―」にチームラボら参加

青森の春の到来と青森発アートの未来を寿ぐ空間、「Aomori Spring Sprout展 ―青森 春に芽吹く光―」が青森県立美術館で始まった。会期は4月24日まで。

文=坂本裕子

展示室 チームラボ 撮影=小山田邦哉

 コロナによる臨時休館を経て、青森県立美術館に青森の春到来の息吹をアートで感じる空間が出現した。その名も「Aomori Spring Sprout展 ―青森 春に芽吹く光―」。本展のそもそもの会期は、雪解けが始まり、やわらかな光とともに、木々はその内に新たな胎動を秘め、草花はその芽を出す準備を始める3月だった。本展は、新しい生命のはじまりを寿ぐとともに、新たな「アートの芽吹き」への願いが込められたものだ。

 昨年11月に八戸市美術館がリニューアルオープンし、県内には5つの美術館・アートセンターが出そろった。青森県立美術館、青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)、弘前れんが倉庫美術館、十和田市現代美術館と、それぞれに特徴のある建築とともに、独自のコンセプトでアートを収集、企画、支援している。2021年から、この5館が連動し、アートを核に美術館と周辺地域をつなぎ、青森のアートを世界に発信するプロジェクト<5館が五感を刺激する―AOMORI GOKAN>を始動している。本企画はその活動の本格的な始まりの宣言でもあるのだ。

左から企画者の南條史生と本展参加作家たち(3月撮影) 撮影=筆者

 ふたつの発芽を寿ぐのは、あらゆるテクノロジーを駆使して世界各地で人とアートが触れ合う場を提供し、世界最多の集客数でも知られる、猪子寿之率いるアート集団・チームラボと、十和田市に拠点を持ち、フィールドワークを主体に、その調査・研究の成果を作品にする山本修路。さらに山本の作品は、光や映像を使って独自の世界を表現するアーティスト・髙橋匡太がライティングでコラボレーションする。

 今回山本が制作したのは、1/25000の縮尺による青森県全景のジオラマ。素材も青森県産の杉材で、厚さ2センチの板を重ね合わせて等高線に添って高低差も再現した。

展示室 山本修路 撮影=小山田邦哉

 それぞれの地には、ランドマークとして名所や地名のフラッグが立ち、河川と海には白い小さな玉(BB弾)が撒かれ、水の流れと海、時には残雪を表す。海岸線のあり方、県境をなぞるような山の稜線、縄文の遺跡が残る海抜との関係性など、青森という地が地形から育んだ歴史、文化、生活の様相が浮かび上がり、みる者は、それぞれの興味や経験で青森という土地を眼で探索できる。

 「つくっていて自身も改めて青森という土地の歴史やその成り立ちについての発見があった。みなさんそれぞれの青森を追ってほしい」と山本は言う。

展示風景より、山本修路《青森県立体地形模型》(2022、部分) 撮影=筆者 

 このジオラマの空間を、髙橋によるライティングが包み込む。朝から昼、そして夜へ。その柔らかい光は、同時に四季をも表して、ジオラマに様々な表情をもたらしている。

 一本の杉をその地層とともに切り出したような模型はゆっくりと回転し、地球の自転をも感じさせる。その影が髙橋の照明によって壁に浮かび上がる光景は印象的だ。

 この影絵に、雪原の風景をイメージするという山本は、もう一方の壁面に自身が撮影した県内の四季折々の風景写真も投影する。部屋いっぱいの青森県、マスク着用のため、なかなか感じることは難しいが、切り出した杉の香りとともに五感で春の息吹を体感できる。

展示風景より、山本修路《スギの模型》(2022 ) 撮影=筆者

 青森での作品発表は6年ぶりというチームラボは、初公開を含む6つの多様な作品で、アート作品に触れる楽しみや思考することをうながしつつ、アートが世界をつなぐ可能性を、光と影双方の視点から提示する。

展示室 チームラボ 撮影=小山田邦哉

 《生命は生命の力で生きているⅡ》では、日本画によく見られる花鳥画が3D映像となってゆっくりと回転する。そこには昼夜と四季が表され、凍てついた枯れ枝があでやかに花開いていくさまを追うことができる。高精細画像で再現される草花や飛び交う蝶は、触れられるのでは、と思う “リアル”さで、認識に揺さぶりをかける。

展示風景より、チームラボ《生命は生命の力で生きている II》(2020、部分) 撮影=筆者

 《憑依する炎》は、画面に燃え盛る炎が線画で表される。線とわかってもその炎の勢いには熱さすら覚える。この炎は、そばにあるQRコードからダウンロードするアプリを起動すると、自身のスマートフォンにも点り、持ち帰ることができる。さらにそれをほかの人に灯すことも可能なのだ。あたかもオリンピックの聖火のように、トーチカの灯のように、炎は世界へとリレーされていく。

チームラボ 憑依する炎 / Universe of Fire Particles 2021 Digital Work Single channel Continuous Loop

 洛中洛外図のような金雲たなびく屏風には、どこか懐かしい風情の町が表わされる。その世界は展示される地と同じ時間帯で時が巡り、朝から夜へ、春から夏へと移り行くなかで、人々の営みも変化していく。穏やかで幸せな日常。

 動く屏風絵は、見ているだけでも飽きないが、実はその画面に触れ、彼らの世界に干渉することができる。しかし、それが過ぎると画面の中では争いが起こり、人々は殺し合い、町は炎に包まれ、1年をかけて戦乱の世が続き、やがて無人の廃墟と化すそうだ。そこに人間は復活しない。焼野原はふたたびゆっくりと時間をかけて植物に覆われるが、文明は戻らないのだ。

 《不可逆の世界》は、タイトルそのままに、失われたものは二度と戻らないという厳しい現実をはらみ、触れるけれど触ってはならない禁忌をも提示する作品。

展示風景より、チームラボ《不可逆の世界》(2022) 撮影=筆者

 《Matter is Void - Black in White》とは、「空即是色」あるいは「一切皆空」の意。毛筆で書いたような文字が回転しながら霧消してはまた現れる、「空書」と名付けられた墨跡だ。これはNFT作品。ただし、誰もが無料でダウンロードでき、誰もがオリジナルを「所有」できる。実際に購入した者との差異は、言葉を書き換えられる「権利」の有無で、言葉が変わると、ダウンロードした人々の文字も変わる。そこに現れる言葉により、作品の価値は変動する。「所有」とは何か、そこに付与される「価値」や「権利」とは何か、「使用」の意味とは? 作品の価値や所有歴を保証する代替不可能なトークンとして今話題のNFTが持つ本来の機能を評価しながら、チームラボが提示するのは、現在もてはやされている注目点のいびつさに対する批判だ。

展示風景より、チームラボ《Matter is Void - Black in White》(2022) 撮影=筆者

 暗闇にいくつもの赤い光が明滅を繰り返す。明かりが灯ると、光は線状になって集まり、うごめきながら赤い球体が表れる。触れようとすればはかなく消える。丸く光っているのに周囲には境界をつくるものは存在していない。線である光がなぜ広がらずに丸くなるのか? そのうごめきはどうやって発生しているのか? そんな問いを投げかけられたとき、それは美しいだけではなく、とんでもない謎の空間へと変貌する。人間の身体や視覚が常に動いているという点に注目した《我々の中にある火花》は、線香花火のようなその光はどこにあるのか、自身の感覚への内省をうながす。

チームラボ 我々の中にある火花 / Solidified Sparks 2022 Interactive Digital Installation Sound: teamLab

 思索的な作品が並ぶなかで、子供にも楽しんでほしいと展示されるのが《小人が住まう宇宙の窓》だ。

 かわいらしい小人たちが表れる空間に、光のペンで線を描いたり、スタンプを押すと、彼らはその線やイメージで遊びだす。線の色によって小人の動きは変わり、線の高さによってそこで奏でられる音楽が変わる。

 学校では優劣をつけられがちで、絵を描くことが嫌いになってしまうことあるけれど、本来描くことは自由で楽しいものということを伝えたい、というチームラボからの、子供たちのアートワークの場のプレゼント。大人も一緒に楽しめるインタラクティブ作品だ。

展示室 チームラボ 撮影=小山田邦哉

 あらゆる生命が復活する春は、その前提として「死」を内包している。ゆえにこそ美しく、人々はその訪れを祝うのだ。季節、生命、身体、社会システム、そしてアート、様々な生と死を考えさせるチームラボの作品群は、両義的だからこそ、この「春」のまなざしにふさわしいといえよう。

 そして、古来より人間は自然との共生のなかで、その死も生とともに受け止め、等価にとらえて、春を寿いだ。青森にはそうした祭祀が連綿と継承され、いまも各地で執り行われている。

 本展では、青森の季節や風土を彩ってきた民俗芸能も集結。春を呼び込む「八戸えんぶり」、疫病退散を祈る「津軽の獅子舞(獅子踊)」、自然の恵みに感謝する「八戸の矢澤神楽」などの撮りおろし映像も紹介される。

春を呼び込む「八戸えんぶり」
疫病退散を祈願する「津軽の獅子舞(獅子踊)」
自然の恵みに感謝する「八戸の矢澤神楽」

「青森が持つポテンシャルは、豊かな自然と縄文から現代までつながる歴史と文化である。そこにアートからアプローチすることで、春という芽吹きとともに、新しいかたちでこの地の魅力を見いだすアートの可能性を提示することを企図した」と本展の企画に携わった南條史生は語る。

 厳しい冬だからこそ、ささやかな春のきざしに鋭敏な感性で楽しみや悦びを見いだす青森の春。

 短い春の展覧会、そのきらめきは、デジタルアートからアナログ作品、さらには民族芸能まで、ジャンルを超えて、時空を超えて交差する。「芽吹き」の空間は、これからの新しい展覧会の可能性をも感じさせる。

編集部

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