テーマは「脱ぎすて跨ぎ越せ、新しい人へ」。舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー18」が今秋開幕

毎年秋、東京・池袋各所で開催されてきた舞台芸術祭「フェスティバル/トーキョー」の記者会見にて、今年のプログラムが発表された。11回目を迎える今年、新たなディレクターに長島確、共同ディレクターに河合千佳が就任した。F/T18のテーマは「脱ぎすて跨ぎ越せ、新しい人へ」。そこに込められた意味とは。

後列左から、河合千佳、長島確、市村作知雄、森栄喜、福田毅、山本卓卓、松田正隆、前列左から田中教順、稲継美保、坂田ゆかり、ローモールピッチ・リシ―

 2009年のスタートから、過去10回の開催において270作品を上演、61万人以上の観客を動員してきた「フェスティバル/トーキョー」(以下F/T)。今年は、10月13日〜11月18日の期間、東京芸術劇場、あうるすぽっと、南池袋公園ほかを会場に、37日間にわたって開催される。去る7月11日、豊島区本庁舎センタースクエアにて記者会見が行われ、F/Tの主催プログラムのラインアップが発表された。

記者会見の様子

 11回目を迎える今回は、これまでディレクターを務めてきた市村作知雄がエグゼクティブ・ディレクターに就任し、新ディレクターには、ドラマトゥルクとして現代演劇やアートプロジェクトに携わってきた長島確が就任。また、共同ディレクターを河合千佳が務める。

 長島は今年のテーマ「脱ぎすて跨ぎ越せ、新しい人へ」について「世界中でこれまでの価値観がゆらいでいるという状況であり、新しいスタンダードが見えているわけでもない現在。その中から、新しい人たちが現れてくること、そして、年齢や世代を問わず、あらゆる人が新しい人へ向けて変わっていくことが問われている」とし、「フェスティバルは、演劇という集団創作によるメディアを通して、街中に小さな社会がいくつも現れる特別な時間。この小さな社会を通して、いまの社会の『この先』を考えることができる」と語った。

新ディレクターに就任した長島確

 F/Tでは、劇場空間での上演のほか、街中で舞台芸術を鑑賞できるプログラムや、アジアのアーティストの新しい波に注目した作品、市民参加イベントなど、多彩なプロジェクトが展開される。

 「アジアシリーズ」では、国際交流基金アジアセンターと共催で、アジア各国の舞台芸術、音楽、美術などを紹介する。過去には「韓国」(F/T14)を皮切りに、「ミャンマー」(F/T15)、「マレーシア」(F/T16)、「中国」(F/T17)と、各国の気鋭アーティストとともに、多様な文化や身体のあり方を前提とした継続性のある交流の基盤づくりを進めてきた。

 5回目となる今回は「トランス・フィールド」をテーマとして、アジア地域の多様で複雑な社会のなかで創造されている、芸術分野の境界を超えた様々な試みに着目する。

『ボンプン・イン・トーキョー』 キュレーション:ローモールピッチ・リシー

 既存の演劇の枠を超えるアーティストが、街の様々な場所で演劇、美術、パフォーマンスなどの演目を実施するのが「まちなかパフォーマンスシリーズ」。観客が劇場へ赴くのではなく、まちなかへ入っていく仕組みを創造するこのシリーズは、今年で3回目を迎える。

 昨年に続いての参加となった写真家の森栄喜は朗読のパフォーマンス作品を、俳優の福田毅は生ラジオ放送をテーマに東京さくらトラム(都電荒川線)車内で上演されるサイトスペシフィックな作品を発表。また、日本各地でコーヒーを媒介にして人々が集う場をつくってきたL PACK.は「茶の湯」を出発点にした表現に挑む。そして、演出家の坂田ゆかり、俳優の稲継美保、ミュージシャンの田中教順はお寺を会場に地域の歴史をテーマにした物語を描くコラボレーション企画を行う。

『A Poet: We See a Rainbow 』 作・演出・出演:森栄喜

 また、F/Tでの上演が3回目を迎えるプロジェクト『福島を上演する』(2016年〜)を実施してきたマレビトの会は今回、8名の作家が福島を取材し執筆した戯曲群を、各1回限定で4日間にわたって上演する。

 代表の松田正隆は「劇場で上演することによって、福島という街のいまが初めてできあがってくる。そういう意味が生まれる上演になれば」と話した。

マレビトの会主宰の松田正隆

 さらに、イラン出身でベルリン在住の劇作家、ナシーム・スレイマンプール×ブッシュシアター『NASSIM』は母語(ペルシャ語)で伝えることをテーマに書いた作品を発表。2012年に範宙遊泳を立ち上げた山本卓卓は、ドキュントメント『Changes』で映画というメディアでの創作に初挑戦する。

 ほかにも、シンポジウムや連携プログラム、トークプログラムなど多様な企画が開催される。チケットの一般発売は9月9日、先行割引チケットの発売は9月5日を予定している。

F/T18 プログラムラインアップ

アジアシリーズ vol.5 トランス・フィールド

・『MI(X)G』(ミックス) コンセプト・演出:ピチェ・クランチェン
・ショプノ・ドル『30世紀』 脚色・演出:ジャヒド・リポン 原作:バドル・ショルカル
・『ボンプン・イン・トーキョー』 キュレーション:ローモールピッチ・リシー
・『フィールド:プノンペン』
・「境界を越えて~アジアシリーズのこれまでとこれから~」

まちなかパフォーマンスシリーズ

・『A Poet: We See a Rainbow 』(ア・ポエット:ウィー・シー・ア・レインボー) 作・演出・出演:森 栄喜
・『ラジオ太平洋』 作・演出・出演:福田 毅
・L PACK.『定吉と金兵衛』 作・演出・出演:L PACK. 原案:落語『茶の湯』より
・『テラ』 坂田ゆかり×稲継美保 ×田中教順 原案:三好十郎『詩劇「水仙と木魚」――一少女の歌える――』ほか

・マレビトの会『福島を上演する』 作・演出:マレビトの会
・ナシーム・スレイマンプール×ブッシュシアター『NASSIM』(ナシーム) 作・出演:ナシーム・スレイマンプール
・ドキュントメント『Changes』(チェンジズ) 監督・撮影・編集:山本卓卓
・シンポジウム、トークプログラム ほか 

編集部

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