文化財の新しいかたち。
「クローン文化財」だけの展覧会、藝大美術館で開催

実物と見まがうばかりの「クローン文化財」。それを一堂に集めた展覧会「素心伝心」が東京藝術大学大学美術館で始まった。「クローン文化財」が担う役割とはいったい何か?

クローン文化財の《法隆寺釈迦三尊像》

 「クローン文化財」は、東京藝術大学が開発した特許にもとづき制作された、文化財の超高精細復元/複製作品。最先端のデジタル技術を活用し、オリジナルの精細な画像データを取得し、三次元計測や科学分析を行って、空間・形状・素材・質感・色を忠実に再現したものだ。また、このデジタル技術に加え、藝大ならではの手仕事による彩色や研磨などを経て、質感や文化的背景などを忠実に再現しており、文化財を後生に伝承することを目指している。

 東京藝術大学藝大美術館で始まった「素心伝心ークローン文化財 失われた刻の再生」展では、この技術を活用したクローン文化財の数々を展覧。国宝に指定されており、門外不出の《法隆寺釈迦三尊像》(飛鳥時代)では、3Dスキャニングと鋳造、研磨などを経て、欠落した螺髪(らほつ)や大光背周縁に存在したとされる飛天をも復元した。実物以上に本来の姿に近い状態で鑑賞することができる。また釈迦三尊像を囲む金堂壁画は、1949年の火災で焼損しているが、その焼損前の姿もあわせて見ることができ、同作は本展のハイライトの一つと言っていいだろう。

 また、今回の展覧会では、シルクロードの文化財にも焦点を当てて紹介している。2001年にイスラム原理主義を掲げるタリバンによって破壊されたアフガニスタン・バーミヤンの東大仏は、その天井に描かれていた壁画《天翔る太陽神》を復元。鮮やかな青=ラピスラズリをはじめとする同素材の顔料で彩色し、文化財破壊へのカウンターメッセージともなっている。

クローン文化財《バーミヤン東大仏天井壁画復元》

 現地に行かなくては見ることのできない文化財や、いまは失われた文化財。これらを最新の技術で蘇らせる「クローン文化財」は、文化財が持つ価値を、より身近に、より多くの人々に伝えていくという意味において、今後さらに重要なものとなっていくだろう。

クローン文化財《高句麗古墳群江西大墓》

編集部

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