エリザベス・ペイトン展に見る
「現代の肖像画」 原美術館で開幕

現代の肖像画家"としてアメリカの女性作家、エリザベス・ペイトンの、日本の美術館では初となる個展が東京・品川の原美術館(品川)で1月21日より開幕した。25年の画業を一望する本展の見どころとは?

エリザベス・ペイトンと《アイリスとクララ コマース通り》(2012)

現在、ニューヨークを拠点に活動するエリザベス・ペイトンは、90年代初めより絵画や素描、版画を中心に制作をし、ミュージシャンや歴史上の人物、あるいは親しい友人や愛犬の肖像画まで、幅広い対象を、等しい距離感で描いている。キャンバスの大きさは控えめながら、その大胆な色彩や繊細な線描写によって、対象の美しさを際立たせ魅力的な存在に変貌させることから、ペイトンの絵画は"新しい具象画"と称されてきた。

日本では、97年にGallery Side 2で個展を、また2006年に国立国際美術館「エッセンシャル・ペインティング」展に参加して以来、3度目の展覧となる本展。この機会についてペイトンは、「Gallery Side 2で個展をやったときに、作品集を作ってもらったんですね。それに対する皆さんの反応を見て、私の作品が、日本と特別な絆があるように感じました。他にはない受け入れられ方、感じ方をされているように感じ、日本で個展をやりたいと思うようになったんです」と語る。

「展覧会するという話を聞いたときに、(最近よく描いている)静物画で構成するのがいいと思っていました。でも実際に原美術館に来てみて、初めて展覧会をやるということもあり、もうちょっと私の全体像を見てもらうほうがいいと思った。普通の学芸員だったらもっと違う作品を選んだと思いますが、今回選ばせていただいたのは私が個人的に好きなものばかり。ロマンチックで情熱的で、私にとって意味が大きいものを選びました」。

展示風景より。《眠るカート》(1995)

本展には、ペイトン本人が所蔵している作品も含め、アメリカ、ベルリン、ロンドンなど様々な場所から集められた作品42点が集結。最初の部屋となるギャラリー1には序章にふさわしいものをという意向で、無防備なカート・コバーンの姿を描写した《眠るカート》(1995)をはじめとする3点が展示。ギャラリー2以降は時系列で構成され、90年代なかばから2016年の近作までが並ぶ。

ペイトンは最近、オペラに関心を持っており、《リヒャルト ワーグナー》(2010)や、《イゾルデ 魔法のプティクル/琥珀色》(2015-16)など、オペラが題材になっているものも見ることができる。これについてペイトンは「興味を持つようになったのは、メトロポリタン歌劇場で個展をやらないかと言われたとき。『できるわけないじゃない!』と思ったのですが、一度レコードを聴いたときから惚れ込んで、オペラファンになりました。魅惑されたのは、ある種陳腐な、そしてあまり意味をなさないような感じがするのに、同時に非常に深いところで心動かされるところ」と語った。

オペラを題材にした作品のひとつ、《リヒャルト ワーグナー》(2010)

今回、原美術館という元私邸で個展をやることについて、ペイトンは何を意識したのだろうか? 「この環境は、私の作品をいいかたちで守ってくれているような気がします。とてもマッチしている。親密な感じが醸し出されています。小さいところがいい、というわけではなく、私の作品を日本で紹介するイントロダクションとして、ここの場所がいいと思いました」。

前回の日本での個展から約20年を経て、作品により深みや幅が出てきたというペイトン。親密な視線を持ちながら、肖像画を探究してきた彼女の作品と、静かに向き合ってみてはいかがだろうか。

展示風景より。左から《ジョージア オキーフ 1918年のスティーグリッツにならって》(2006)、《ジュリアン》(2004)

編集部

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