8月4日、レバノンの首都ベイルートで壊滅的な爆発が発生。8月7日時点の報告によると、137人以上が死亡、5000人以上が負傷。ベイルート港の倉庫に6年間保管されていた爆発物が原因とみられるこの大規模な爆発により、ベイルート市内の多くの美術館や博物館、ギャラリーも大きく破壊された。
近代・現代美術作品が多数展示されているスルソーク博物館はInstagramで、スタッフの安全を確認しながら、「ベイルートを震撼させた大規模な爆発事件で死亡し、負傷し、または行方不明となった何千人もの人々に対し、我々は深い悲しみに打ちひしがれている」と投稿している。
「Hyperallergic」の報道によれば、今回の爆発は博物館のドア、窓、天窓を破壊し、一部の展示室の天井も崩壊。また、オランダの画家キース・ヴァン・ドンゲンが1930年に描いた博物館創設者ニコラ・スルソークの肖像画など、多くのコレクションにも損傷を与えている。
同館はその被害についてこう続ける。「この2日間、私たちは考えをまとめ、被害を評価しようと努めてきた。この悲劇的な大惨事の影響を受けたすべての人々と同様に、破壊されたものを再構築するために前進するしかない」。
この大規模な破壊のなか、同館はコレクションの保存などに被害が及んだベイルートの美術機関に対し、各コレクションをスルソーク博物館に移動することを提案。同館のゼイナ・アリダ館長は、「私たちの保管室はいまでも健全で、コレクションを保管する必要があるあらゆる組織に開放されている」と語っている。
また今回の爆発では、ハムラ地区にあるレティシア・ギャラリーのディレクター、ガイア・フドリアンや、フランス系レバノン人建築家ジャン=マルク・ボンフィルスが亡くなったことも確認された。
ボンフィルスが設計したイーストビレッジの建物に位置するギャルリー・タニットや、ベイルート港の近くにあるマルファ・ギャラリー、スフェール・セムラー・ギャラリー、そしてベイルート・アート・センターなどの施設も大きな被害を受けた。
ベイルート・アート・センターはInstagramで、今回の事件に対し、「その荒廃と深い怒りの程度は言葉では言い表せない」と政府を非難している。
近年、レバノンでは経済危機が悪化しており、政府の腐敗や国の財政問題などによって政治的な緊張が高まっている。昨年より反政府デモが繰り広げられており、今年に入ってからは新型コロナウイルスの感染者が増加するなか、公的医療や電力、安全な飲み水などの不足も深刻化している。
こうした状況に対し、ベイルート・アート・センターは次のように批判している。「私たちの姉妹兄弟のネットワークができる限りの支援を行っているいっぽうで、政府の汚職ははびこっており、どうやって外国からの寄付から利益を得ることができるか、首をかしげて待っている。政府機関にはお金を送らないでください。その金は決して我々には届かない」。
いっぽう、スルソーク博物館も個人や団体による支援に感謝しながら、次のような言葉を残している。「嵐は過ぎ去るが、それを引き起こした者たちは過ぎ去ることはない」。