これまでパリのポンヌフ橋やベルリンのライヒスターク(国会議事堂)、あるいはニューヨークのセントラルパークなど、世界各地の建造物を巨大な布で梱包するプロジェクトを行ってきたクリストが、ニューヨークの自宅で5月31日逝去した。享年84。
クリストは1935年6月13日ブルガリア生まれ。同年同日生まれの妻ジャンヌ=クロードとともに、「クリストとジャンヌ=クロード」名義で創作を行い、布で景観や施設を一時的に包むアートプロジェクトに取り組んできた。日本では91年に茨城とカリフォルニアを同時に傘で覆う《アンブレラ 日本=アメリカ合衆国1984-91》を行っている。
妻のジャンヌ=クロードは09年に75歳で逝去しており、その後はクリストのみでプロジェクトを実施。2016年には、浮き橋を布で包み島と島を結んだ《フローティング・ピアーズ、イタリア、イゼオ湖、2014-16》を、18年にはロンドンのハイドパーク内にあるサーペンタイン・レイクに、7506個のドラム缶を積み上げた《The London Mastaba》を発表。大きな話題を集めた。
クリストは今年、パリの凱旋門を梱包する作品《l’Arc de Triomphe, Wrapped(Project for Paris, Place de l’Étoile-Charles de Gaulle)》を発表する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で21年9月に延期。訃報を伝えたクリストとジャンヌ=クロードスタジオは、Twitterで「クリストとジャンヌ=クロードは、ふたりの死後も進行中の作品を継続することを常に明言してきました」としており、凱旋門のラッピングは予定通り行われることが明らかにされている。
クリストはかつて「美術手帖」のインタビューに対し、「2度と見られないことを知っているから、たくさんの人が見に来るのです。プロジェクトは所有できない、買えない、入場料も取らない、すばらしく非合理なものです。ありふれていない、役に立たない(ユースレス)ことこそが、クオリティーを支えているのです」と語っている。