石上純也がカルティエ現代美術財団で初の大規模個展を開催。20のプロジェクトを総覧する

パリを代表する現代美術館「カルティエ現代美術財団」で建築家・石上純也の個展「石上純也―FREEING ARCHITECTURE」が、2018年3月30日から開催されることが発表された。本展はカルティエ現代美術財団が一人の建築家を特集する初の大規模個展となる。

神奈川工科大学の工房内部の様子 ©junya.ishigami+associates

 庭園が周囲を囲む、ガラスとスチールでできた特徴的な建築—フランス人建築家ジャン・ヌーヴェルが設計した「カルティエ現代美術財団」で初の単独建築家の個展「石上純也―FREEING ARCHITECTURE」が行われる。

神奈川工科大学の工房 ©junya.ishigami+associates

 1984年にラグジュアリーブランド「カルティエ」によって設立された同財団は、現代作家に特化したフランス初の民間機関。設立以来、フランス国内外で活動を展開し、94年にはパリに新築された拠点に移し、ジャン・ヌーヴェル建築と共にアートのプラットフォームとして確固たる地位を築いてきた。これまで三宅一生や横尾忠則、北野武など日本人クリエイターたちも作品を発表してきた同館だが、単独建築家の大規模個展を開催するのは今回が初。

 石上純也は1974年神奈川県生まれ。東京藝術大学で建築を学び、SANAAで建築家としてキャリアを積んだ後、2004年に独立し「junya.ishigami + associates」を設立。2000年代を代表する建築家として、神奈川工科大学KAIT工房(2008)をはじめ、モスクワ科学技術博物館のリノベーションとミュージアムパークへの転換(2010〜)、コペンハーゲンの「House of Peace(平和の家)」(2014)など、世界各国でプロジェクトを展開してきた。

House for Peaceの外観パース ©junya.ishigami+associates

 2007年には東京都現代美術館の「space for your future」展で、吹き抜け空間に巨大なアルミ造の立方体を浮遊させた《四角いふうせん》を発表し大きな話題を呼んだほか、10年の第12回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展では「Architecture as air: Study for château la coste」で金獅子賞を受賞。以降も数々の展覧会や受賞を重ねている。

 本展では、石上がこれまでアジアとヨーロッパで展開してきたプロジェクトの中から20件をピックアップ。構想から建造までの様々な段階を記録した映像やドローイングとともに、各プロジェクトを大型模型で紹介する。模型は、実際の建築のためのものではなく、展示用に特別に組み立てられるもの。石上は本展を「1つの建築プロジェクト」としてとらえ、会場であるジャン・ヌーヴェル建築と一体になることを目指すという。

「Art biofarm(アートバイオファーム)」の透視図 ©junya.ishigami+associates

 同館館長のエルベ・シャンデスは石上を選んだ理由についてこう話す。「2007年に東京都現代美術館の『space for your future』展で石上の展示を見てショックを受けました。作品に対しても、また石上の世界観や建築方法などにも惚れ込んだんです。財団で展覧会をするのは決まりだと感じていました」。本展は10年越しで実現した個展ということになる。

 タイトルにある「FREEING ARCHITECTURE(自由な建築)」とは、2011年に石上が雑誌『新建築』のために執筆した巻頭論文のタイトルから取られたもの。そこには「自由な視点で建築をとらえる」「自由なアプローチで建築を考える」「みんなが自由に価値観を持てる時代の建築」という意味が含まれている。石上はこう話す。「僕の建築は社会とあまり関わりないと思われていますが、そうではありません。世の中とつながるためにはどういう立場でどういう建築をつくれるのかを提案しなくてはいけない。近代建築は当時の情勢に合わせてマスに向けた提案が多かった。でも現代は、みんなが同じ未来を目指していても幸せにはなれません。いろんな個人、団体、価値観を排除しない、受け入れるような建築の種類をもっと増やしていきたいと思っています」。

外部から内部に入る様子を示す「Chapel of the Valley(谷間のチャペル)」の透視図 ©junya.ishigami+associates

 建築のステレオタイプを超えるような数々のプロジェクトを生み出してきた石上。本展は、石上の建築そのものとそこに込められた思想を俯瞰して見つめる、貴重な機会となるだろう。

 なお、会期中には「石上純也の世界」をテーマにした「Nights of Uncertainty(不確実の夕べ)」を複数回開催。石上を含む建築家たちのディスカッションや哲学者、エンジニア、評論家による講演なども予定されているのであわせてチェックしたい。

 

石上純也

編集部

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