スクリプカリウ落合安奈の個展が埼玉県立近代美術館で開催中。コロナ禍で見えてくる「越境する祝福」とは?

「土地と人の結びつき」というテーマで作品を制作するスクリプカリウ落合安奈の個展「越境のする祝福」が、埼玉県立近代美術館で開催されている。会期は2021年2月7日まで。

スクリプカリウ落合安奈 Blessing beyond the borders(部分) 2019

 ある時代を生きる無名の人々や、土地が引き継ぐ記憶と文化に焦点を当てるアーティスト・スクリプカリウ落合安奈。現在、その落合の個展「越境する祝福」が、埼玉県立近代美術館で開催されている。本展は、同館の学芸員が気鋭のアーティストを自由に推薦する展示プログラム「アーティスト・プロジェクト#2.0」の第5弾だ。会期は2021年2月7日まで。

 落合は、日本とルーマニアのふたつの母国に根を下ろす方法の模索を出発点に、「土地と人の結びつき」というテーマで作品を制作。これまで国内外各地で土着の祭や民間信仰などの文化人類学的なフィールドワークを重ね、その延長線として霊長類学の分野にも取り組み、インスタレーションや写真、映像、絵画などマルチメディアな作品で、時間や距離、土地や民族を越えて物事が触れ合い、地続きになる瞬間を紡ごうと試みる。

スクリプカリウ落合安奈 Blessing beyond the borders(部分) 2019
スクリプカリウ落合安奈 Blessing beyond the borders(部分) 2019

 本展では、各地でのフィールドワークにもとづく最新のインスタレーションを発表。展覧会タイトル「越境する祝福」は、出品作の大型インスタレーション《Blessing beyond the borders》(2019)から名付けたものだという。同作は、過去に鎖国状態を経験した日本とルーマニアという遠く離れたふたつの国の土着の祭りや風習の映し出す景色を、空間に二重螺旋状に浮かび上がらせる作品だ。作品空間にはこれまでに落合が訪れた土地の音が響き渡り、本展に合わせて、その音に会場であり自身の出身地でもある埼玉県の音を新たに組み込んだという。

 加えて、「人はどこに自分の骨を埋めるのか」という問いから、人々のなかに眠る帰属意識に焦点を当てる《骨を、うめる-one's final home》(2019)も展示。落合がベトナムで出会ったある日本人の墓の存在から、その墓の主が生まれたとされる長崎県で行った国際結婚の歴史調査にもとづく新作の発表。

 「鎖国と国際結婚」をめぐるふたつのインスタレーション作品に象徴されるのは、隔たりを生むものと、反対にそれを越えてゆくもの。世界的な鎖国状態が現実となったいま、本展では、改めて対岸を想う作品として15年から世界各地の海辺で展開している《The backside over there》シリーズも展示される。海の写真を貼り込んだ壁状のこの作品は、海が持つ人々の移動を「阻む」側面と、潮流や浜への打ち上げによって出会うはずのなかったものを「つなぐ」という両面性を表す。本展を通じて、いまの状況から見えてくる「越境する祝福」とは何かを考えたい。

スクリプカリウ落合安奈 Project: The backside over there 2015〜

編集部

Exhibition Ranking