桃山時代の絵師・海北友松(1533~1615)は、近江・浅井家の家臣という武家の生まれながら、主家や兄たちが信長に滅ぼされ、狩野派に入門したと伝えられる。妙心寺や建仁寺など、京都の有名寺院の障壁画や屏風絵を多く手がけたことで知られるが、現存する作品のほとんどは60代になってからのもので、その生涯には謎が多い。
史上最大規模の回顧展となる本展では、晩年期の代表作をはじめ、貴重な初期作や初公開作、関連資料を総覧し、83年にわたる友松の生涯を探る。得意とした龍図や、宮家や公家のために描かれた大和絵、漢画の手法を用いた華やかな金碧画などが集結する。なかでも注目が集まるのは、最晩年に描かれた水墨画の傑作《月下渓流図屏風》の里帰り。それまでの迫力ある画風とは一転、山深い渓谷を静謐に表現した本作は、1958年にアメリカのネルソン・アトキンズ美術館に所蔵されて以来、国内初の公開となる。
本展は開館120周年を記念した企画で、同館が10年にわたり開催してきた、桃山絵師に焦点を当てた特別展覧会シリーズの最後を飾るもの。会期はわずか36日間で、巡回はない。前期(〜4月30日)と後期(5月2日〜)で展示替えが予定されている。