1913年、ドイツの豊かな家庭に生まれたヴォルス(本名はアルフレート=オットー=ヴォルフガング・シュルツ)は、幼少期より音楽や詩に触れ、独学で絵画を描くようになり、多彩な才能を開花させた。16歳で最愛の父を亡くし、17歳で学校から離れたヴォルスは、その後1930年代にフランスに移り住み、写真家として成功する。しかしドイツ対フランスの戦争が始まると、敵国人としてたびたび収監されることとなる。そのような境遇のなかヴォルスは、ドローイングや水彩画など絵を描くことに没頭していった。
戦後になると油彩画を始め、慣習にとらわれない描法を展開する。ジャン=ポール・サルトル、ジャン・ポーランら文学者や詩人たちに認められ、挿絵の依頼を受けて彼らの著書に銅版画を寄せつつも38歳の若さで他界。貧窮にあえぎながら没したヴォルスは、死の直後から「アンフォルメル」動向の先駆としてにわかに注目を集め、評価を高めている。日本では、1964年に東京・南画廊(現在は閉廊)がヴォルスの初個展を開催した。
本展では、同館が所蔵するヴォルスの油彩、水彩、銅版画とあわせて、日本における受容を反映しながら、路上の石から宇宙まで作家がモチーフとした作品世界を紹介する。展示は、文化人や食品を撮影した写真作品を紹介する「写真 路上と台所[1937-41年]」、初期の幻視的な絵画作品から後期の抽象的な絵画作品を展開する「水彩画と油彩画 幻視から宇宙へ」、文学者たちの著書の挿絵として手がけた銅版画を展示する「挿絵銅版画 文学とともに」の3章で構成。ヴォルスの全貌に迫る貴重な機会となっている。