デジタル×伝統の融合で描く「流れる宝石箱」。新井文月インタビュー

多摩美術大学情報デザイン学科を卒業後、ウェブデザイナー、ダンサーを経て、現在は絵画を表現媒体とする
アーティスト、新井文月。アトリエ新井文月の代表を務め、新たな表現を獲得した作家が、芸術を通して目指すものとは。

文=佐藤恵美 撮影=岡崎果歩

新井文月 新井のアトリエにて

銀河の意識をかたちにする

 幼い頃、足の病気で歩くことができず、空想の絵を描く日々だった。美大に進み、ストリートダンスに出会って以来、15年以上ダンスシーンで活動してきた。絵筆を執るときは自身でつくったプレイリストを再生し、音楽に合わせて踊りながら線を描いていく。

 「ダンスの影響は大きいです。踊りのなかで静止したり素早くキレのある動きでリズムが繰り返されますが、その流れが画面に表れる。自分のテンションが上がり、全身全霊で動けるときは完全な線になりますが、思考や脳が先んじてしまうと、不要な線をたくさん描いてしまいます」。

 モチーフのなかには銀河文字と呼ばれる、古代・神代文字よりも根源的な文様が見られる。これは調和された銀河の意思を反映し、人類がお互いに理解しながら平和へと向かうメッセージである。ひとつの文字には10万語の意味が集約されている。

限界を感じた時、目の前に目指す道は出来る、顔を上げろ 和紙にアクリル絵具、写真 330×225cm

 新井の身体に合わせて生み出される線は集合し、流れるように画面全体に広がっている。以前は織田信長や月、富士山など具体的なモチーフを描いていたこともあるが、近年は線の動きを重視した抽象的な表現が多くなった。近作のタイトルリストを見ると、自然や人に対する賛美、葛藤、感謝、愛といった様々な感情や問いかけのような文言が並んでいる。

 「タイトルには『人はなんのために生きるのか』といった命題が込められています」。

 その頃から支持体も変化していった。現在は和紙の上に描き、高解像度で撮影された太陽写真などをPCで加工して重ね、さらにその上から極薄の和紙を重ねて描くなど、デジタルと和紙のレイヤーで奥行きを出している。

 「『流れる宝石箱』シリーズは、見た人の魂を高揚させるべく闇と光・デジタルと伝統技術などを融合させて制作しています。これはアートヒストリーの観点からもまったく新しい制作方法です」。

僕らは皆生きている、生きているから唄うんだ 和紙にアクリル絵具、写真 65×80cm

 一見、相反するものを融合させる新井の思想は、いつ頃生まれたのか。そのひとつの転機となった作品は《闇の絵》(2018)だった。

 「ある出来事に対する怒りや悲しみの感情で闇を描いていたら、画面のなかに自然と光が生まれてきた。闇が行き過ぎると光になるのではないか、と理解しました。闇と光、自然とデジタル、そうした両極端なものを合わせることが調和につながるのではないかと」。

 新井はこれからの不透明な時代に対し、「多様性を尊重し、違いを超えて、ともに生きることがますます求められる」と続ける。

 「そのためにアートの力で自分にできることをつねに考えています。作品にふれることが誰かの生き甲斐に少しでもつながれば大満足ですし、人と人がつながっていくといいですね。公共空間でも、それが実現できたらと思っています」。

製作中の様子

編集部

Exhibition Ranking