30代のコレクター夫婦、飲食店の経営に携わるRENとアートディレクターのKANA。両氏の現代美術コレクションを展示する「22 COLLECTION by REN & KANA」が、東京・渋谷のSPACE D9で10月5日まで開催されている。22作品が揃う本展を契機に、2人が何を思いながら作品を集め、そこにどのような楽しみを見出しているのか話を聞いた。
ふたりで集めた大切なコレクション
まずは、コレクション展の会場を紹介したい。RENさんが初期に購入したのは、縦横が270センチメートルにもなる、佃弘樹のインクペインティングによる大型作品《Black Hole Monolith》(2019)だ。6つに分割したパネルで構成されており、細かなインクの書き込みの集積が、迫力の画面をつくり出している。


イケムラレイコの《Ufu》(2019)もRENさんのコレクションだ。「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」(国立新美術館、2019)が印象に残っていたというRENさんは、アート・バーゼル香港で海外ギャラリーから出展されていた本作に出会い購入。美術館に並ぶアーティストの作品を所有する興奮を憶えた作品だそうだ。

モリー・バウンズ《The Lake(The Reservoir)》(2023)は、KANAさんの初めての購入作品。もともとバウンズが好きで、Instagramで情報を集めていたが、香港のギャラリーのグループ展で出会い、購入を決意した。湖を眺める2人の関係性を想像しながら、部屋で鑑賞するのが好きなのだという。また、武艺凡(ウ・イーファン)の《When the Night Grows Long》(2026)もKANAさんのコレクション。アーティストとの最初の出会いは「Art Collaboration Kyoto 2024」のANOMALYと中国・成都のギャラリーである千高原との合同ブースで、そこで小さな作品をコレクション。さらに今年に入り、ギャラリーに問い合わせて本作を購入した。モチーフが重なり合うレイヤー感が魅力的で、若手作家としての成長も楽しみだそう。

RENさんのコレクションである多田圭佑《残欠の絵画 #277》(2014)はヨーロッパの古典絵画を思わせる絵画の表面に絵具の重層でエイジングを加える、多田圭佑の代表的シリーズのひとつだ。作品のモチーフはゲームを思わせる架空風景であり、こうしたサブカルチャーがRENさんの興味と共通している。また、KAWS《Running Chum #2》(2000)は、RENさんが先輩から譲り受けたという初めてのコレクション作品だ。ほかにも田名網敬一、BIEN,KINJOなどが並び、RENさんのカルチャーへの興味の断片が見てとれる。


2人で購入を決めた作品もあり、その代表が大平龍一の《Pineapple shelf》(2022)。見た瞬間に両氏ともに気に入ったという本作は、木彫のパイナップル型の棚となっており、実際にリビングで本などを入れて使っているのだそう。また近藤亜樹《新月の夜》(2024)は、「近藤亜樹:我が身をさいて、みた世界は」(水戸芸術館 現代美術ギャラリー、2025)での展示作品で、夫婦ともどもファンである近藤作品を迎えられたことが嬉しいと語ってくれた。
ギャラリストや作家とコミュニケーションすることの魅力
ここからはアートを集めるようになったきっかけや、生活のなかでの楽しみ方、コレクションの軸などを聞いたインタビューをお届けする。
──RENさんは飲食事業の会社役員、KANAさんがフリーのアートディレクターをされています。お二人が作品をコレクションするようになったきっかけはなんですか?
REN 叔父がニューヨークに住んでいたので、幼少期によく現地の美術館やチェルシーエリアのギャラリーで美術に触れていたのが原体験ですが、当時は自分が作品を購入するという意識はまったくありませんでした。私はスニーカーをコレクションしていて、2018年頃、KAWSとコラボレーションしたモデルが出たんです。すぐに作品も欲しくなったのですが、オークションではなかなか買えず、欲しいという気持ちが強くなっていきました。そんなとき、先輩からKAWSのシルクスクリーンの作品を譲り受け、それが最初のコレクションになりました。
その後、2020年に購入したのが佃弘樹さんの大型の作品です。清水の舞台から飛び降りるような、いま考えても思い切った購入でした。いまでは、私にとって佃さんは、アートからサブカルチャーまで語り合える存在で、とてもかっこいい人です。その人に惚れ込んだというのも、思い切った購入ができた大きな理由だと思います。
KANA 私の父が広告関係の仕事をしていて、幼い頃から撮影の現場に連れて行ってもらうこともあったので、美術クリエイティブやアートにまつわることが自然と好きになりました。美術大学でデザインを学び、私も広告関係のアートディレクションを手がけるようにはなったのですが、作品を買うという発想はなく、好きなアーティストの図録や本を集めて満足するタイプだったので、まさか自分がいまのように作品を買うようになるとは思ってもいませんでした。
きっかけはやはりRENで、彼がギャラリーで「これ買います」と作品を購入している姿を見て、最初は驚きましたが、やがて影響されて作品を購入する楽しさに目覚めていきました。初めて自分で購入したのは、モリー・バウンズの作品です。アート・バーゼル香港の会期中、目当てにして訪れた周辺イベントのグループ展で出会いました。もともとずっと追っていた作家だったこともあり、迷わず迎え入れました。
──今回のコレクション展に出品されている作品ですが、お二人ともギャラリーやアートフェアで購入したものがほとんどを占めています。近年はInstagramなどのSNSを通じたアーティストとの個人間の取り引きや、ネットオークションで購入するコレクターも増えていますが、お二人がギャラリーやアートフェアで作品を購入する理由はどこにありますか。
REN ギャラリーを訪れるようになった直接的なきっかけは、ファッションブランドとNANZUKAが取り扱っていたアーティストとのコラボレーションでした。そこで初めて、ギャラリーで作品を購入するというイメージが固まりました。オークションについても、2018〜19年くらいに大きな盛り上がりを見せており、私の好きなKAWSを始めとするストリートアートの作家が出品されていたSBIオークションをきっかけに、作品を買える場所として認識するようになりましたね。
KANA 私はコレクションを続けるうちに、ギャラリーから作品を買うメリットを強く実感するようになりました。ギャラリーで扱われている作品は、コンディションの管理がしっかりしていますし、自分が購入した履歴も残してくれるので、長期的に見るとすごく安心なんです。また、ギャラリーとのお付き合いが増えていくと、自分たちの好みを理解してくれて、ギャラリストが「このアーティスト、絶対好きじゃないですか?」と、まだ知らない良い作品を紹介してもらえる嬉しさもあります。あと、単純に人として魅力的なギャラリストが多いので、ただ話すだけでもすごくおもしろいと感じています。
REN 私も、アーティストと直接会話したり、一緒に遊びに行ったりすることに魅力を感じるので、ギャラリーを通して紹介してもらえるのはとても嬉しいですね。またギャラリーのオープニングでは、好きなアーティストが同じコレクターたちとの出会いもあり、交流の場になっています。

──おふたりの作品選びの軸を、それぞれ教えていただけますか。
REN 私は、自分のルーツでもあるサブカルチャーやストリートカルチャー、ファッションの延長線にある世界観を感じる作品が好きな傾向にあります。ただ、いちばん大事にしているのは「アーティストが人間として面白く、大好きになれるかどうか」ということすね。作家さんの年齢は様々ですが、アーティストの人柄や雰囲気に惹かれるかどうかがすごく大きいです。また、最近は単に直感で買うだけでなく、ギャラリーを通してきちんとキュレーションされているか、長く残っていく強度がある作品かどうかも自然と意識するようになりました。
KANA 私の軸も最初からあったわけではないのですが、コレクションするなかで「女性アーティストへの共感」を大事にしているんだと気づきました。自分が見ている世界や生きている感覚と近いものを感じられる作品や、同じ女性として視点に惹かれて購入することがほとんどなんです。作品に私自身を投影しているような感覚に近いかもしれません。同世代のアーティストの作品を選ぶことも多くて、「アーティストと一緒に年を取っていく」感覚を共有できることも、私の作品選びの大切な軸になっています。
──購入した作品は自宅でどのように楽しんでいますか?
KANA リビングや部屋のどこに飾るかは、2人でかなり話し合って決めています。RENのテイストでまとめられた空間に私のコレクションを置いてみて「意外性があっておもしろいね」なんて言いながら、組み合わせを試してみるのがすごく楽しいです。
REN いつも同じ場所に飾ってある作品もありますが、棚の上の作品などは2〜3ヶ月に1回くらいのペースで展示替えをしています。お互いのコレクションを交換しながら、直感的に選んで飾っていますね。
KANA 美術館やギャラリーで鑑賞するのとは違なり、生活空間に作品があると、まるで「仲間」と一緒に暮らしているような感覚になりますし、部屋の雰囲気も気分もまったく違うものになりますね。

──いっぽうで作品が増えてくると、課題になるのが収蔵や保管です。こちらについて悩みはありますか?
REN 私が40作品程度、KANAが10作品程度で、ふたり合わせると50点くらいのコレクションになっています。おっしゃるとおり収蔵についてはとても悩ましいですね。
KANA まだ美術品の保管サービスは使っていませんが、どうしても部屋に入らない大きな作品などは、部屋の一室を収納部屋にしたりしてなんとかやりくりしています。
REN 初期は「この作品はスニーカーの横に並べよう」とか「リビングに置こう」とか考えながら買っていたんですが、いつの間にか飾れる点数を超えてしまいました。いまではもう「自宅に飾れたらラッキー」という状態ですね。保管場所の確保も含めて、コレクターとしての苦労や悩みは尽きないですが、それも楽しむようにしています。
──今後どのようにコレクションを広げていきたいか、将来的な展望はありますか?
REN 長期的に「こういうコレクションにしていきたい」という堅いビジョンはありません。ただ、今回のコレクション展は、自分たちの作品をもう一回見つめ直して、今後のコレクションについて考え直すすごく良い機会になりました。
コレクションを続けていくと、少しずつ見る目が養われて、以前は気づかなかった作品の良さにも気づけるようになるんです。だからいまは、海外の作家さんや、時間をかけてでも手に入れたいなと思うような良い作家さんの作品を探していきたいと考えています。
具体的に欲しいアーティストとしていま思い浮かぶのは風間サチコさんです。買う機会があったのですが、どれを購入しようか悩み続けてしまい。でも素晴らしいアーティストだと思っています。
KANA 私も「こうなりたい」という理想のコレクター像みたいなものはとくにないのですが、欲しい作品はたくさんあります。自分が心から好きだと思えるアーティストの作品を探して買っていく、そのプロセスのすべてが楽しいので、何千万円もするような高額な作品を買うのはむずかしいですが、自分たちの生活に無理のない範囲で、これからも気取らずに楽しんでコレクションを続けていければ嬉しいです。





























