コロナ禍により加速するオンライン化
──まず、サザビーズ・ジャパン社の事業内容についてお聞かせください。
石坂泰章(以下、石坂) 弊社は、サザビーズの世界中のオークションやプライベートセールに作品を出品されたり、落札されるクライアントのお手伝いをおもに行っています。オークションにはおよそ70の分野があります。そのなかでサザビーズ・ジャパンは、印象派・近代美術、コンテンポラリーアート、中国美術、日本美術、ジュエリー、時計に特化しています。
──今年上半期、サザビーズ・ジャパンのパフォーマンスはどうでしたか?
石坂 おかげさまで悪くないですね。オークション会社は守秘義務があるので、お客様が何をお売りになったとか、お買いになったかは申し上げられませんが、了解を得たケースのなかでは、手数料込みで約36億円(当時の為替レート、以下同じ)のモネの《睡蓮》や約15億円のゴッホの《A Pair of Lovers(Eglogue en Provence)》などが日本から出品され落札されました。また、マックロウ・セールでウォーホルの《セルフポートレート》が手数料込みで約24億円で落札、香港のモダンイブニングセールではピカソの《ドラ・マール》が約28億円で日本人のコレクターにご落札いただきました。今年も取引は活発です。
──石坂さんの個人的な経歴について話を聞かせてください。石坂さんのアート業界歴は33年におよび、2005年から14年までサザビーズ・ジャパンの代表取締役社長を務め、14年から18年までは独立、18年から再び代表取締役会長兼社長になりましたね。2回のサザビーズ・ジャパン代表取締役社長就任の経験を通じて、変化を感じているところはありますか?
石坂 18年の時点でも変わりましたが、19年からフランスのITビジネス出身の方がサザビーズの新オーナーになってから、会社の組織化、IT化が急激に進みました。また、コロナ禍をきっかけにIT化がさらに加速しました。
例えば、オンラインオークションでは、それまで1000万円くらいの作品の取引がマックスだったのですが、いまは4億円くらいの作品もオンラインで取引されています。これは大きな変化です。
もうひとつは、会社が前から進めたかったカタログのオンライン化。いまは本当に一部の例外を除いて、カタログはすべてオンラインになっています。コスト削減の点でも非常に意味が大きいですし、オンラインでカタログを出すことによって直前まで作品の出品の追加や撤回もできるようになりました。オンライン化が進んだことで、他部門と連携してのテーマセールも組み立てやすくなりました。例えば、ヴィクトリア・ベッカムが手がけたオールドマスターのセールや、韓国のラッパー/俳優であるT.O.Pがキュレーションしたセールといった試みも可能になりました。
──こうしたセレブたちとのコラボレーションセールは、サザビーズの大きな特徴だと思います。例えば、去年台湾のジェイ・チョウとのコラボセールや香港の映画監督ウォン・カーウァイとのコラボセールなどもありましたね。セレブたちとの連携は、どのような効果をもたらしていますか?
石坂 いままであまり美術の世界と縁のなかった方もオークションに参加するようになりましたね。また、彼ら、彼女らのキュレーションによって、いろんな分野のものが集まって、これまで注目されなかった分野の作品にも目が向くようになりました。例えば、オールドマスターなど、古いものだけのセールでは「ちょっとよくわからない」と思って参加されない方も、それと現代美術を組み合わせることで「こういう見方もあるんだ。じゃあ、ちょっと買ってみよう」となります。
成長エンジンとしてのプライベートセール
──アート・バーゼルとUBSのレポートによると、プライベートセールはここ数年、大幅な伸び率を記録しているようです。プライベートセールの仕組みについてご紹介いただけますか?