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2019.9.6

日本でギャラリーを運営する意義とは。ローゼン美沙子&ジェフリー(MISAKO & ROSEN)インタビュー

ローゼン美沙子とジェフリーの夫妻により、2006年に東京・大塚にオープンしたMISAKO & ROSEN。これまでにリチャード・オードリッチ、ダーン・ファンゴールデン、ファーガス・フィーリーなどの国外のアーティスト、加賀美健、題府基之、廣直高、南川史門、茂木綾子、森本美絵、安村崇をはじめとする国内のアーティストを紹介してきた。国内外のアート市場と対峙し続けてきた2人に、日本のアートが置かれている状況や、国内外のアート市場に生まれている新しい動きについて聞いた。

聞き手・構成=編集部 撮影=吉田美帆

ローゼン美沙子(右)とジェフリー(左)。後ろはリチャード・オードリッチの作品
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ーーMISAKO & ROSENがギャラリーとして打ち出している特色を教えてください。

美沙子 最初、ギャラリーのコンセプトは、そこまで確信的なものとしてあったわけではなかったと思います。やっていくうちに好きなものもはっきりしてきたし、プログラムのつくり方がわかってきたんです。

ジェフリー MISAKO & ROSENが開催する展覧会や、所属するアーティストに独特のテイストがあると言われるのなら、何年ものあいだギャラリーを運営して、経験を積み重ねた結果、カラーが生まれたのでしょうね。

ーーでは、展覧会の企画や内容はどのように決めているのでしょうか?

ジェフリー 基本的にはふたりが同意したプログラムというのが前提です。あとは、ギャラリーのカラーや、いまあるコンセプトに通じているか、などです。たまに、取り扱いアーティストから情報をもらったりもします。自分が好きなアーティストが推薦するのですから、ものすごい信憑性がありますよね。

 展覧会を開催する際は、タイミングが重要になってきます。例えば、秋にギャラリーで展覧会を開催するときは、12月にニューヨークのNADAに持っていけるかを考えるなど、作品が展覧会とアートフェアの両方で連関することを前提に企画したりもします。

美沙子 基本的に自分たちの好きなアーティストで企画します。でも、国際的に通用するかどうかを考えることもありますね。日本で作品がたくさん売れることへの期待は残念ながらいまのところ非常に薄いので、日本で展覧会をしたあとに、売れなかった作品を海外へ持ち出す必要があります。

ジェフリー それでも、日本で展覧会をおこなう機会を大切にしています。日本のオーディエンスにとっては、海外でしか見られない作品に触れる重要な機会となるはずです。日本のアーティストには新作を見せることのできる機会が必要ですし、何よりギャラリーで展覧会を企画することは楽しいことです。たくさん売れないからといって内容を妥協することはあまりしたくありません。

ーー所属するアーティストとのあいだでは、どのような関係の構築を心がけるのでしょう。

ジェフリー 私たちと一緒に仕事をしているアーティストとは、家族であり、同時に同志のような意識を持って接しています。

美沙子 あたり前ですけれど、アーティストがいなければ、ギャラリーは成り立ちませんからね。

ジェフリー 私たちは、おそらく誰よりもアーティストを尊敬していると信じています。彼らが作品をつくるときに直面するであろう困難、それを乗り越えることはとてつもない挑戦です。だから、こういった作品を生みだすアーティストを非常に尊敬しています。

ーー国外のアート市場をよく知るおふたりは、日本のアート市場の特異性はどんなところだと考えていますか?

美沙子 いまさらですけど、コレクターが少ないですよね。あくまでも海外と比べるとですよ。インタビューでこれを言わないといけないのは、ちょっと残念ではありますけどね。

ジェフリー 質の良いコレクターが少ないという意味ではなく、コレクターの絶対的な数の問題です。日本のアートを支えているコレクターは素晴らしい存在だと思っています。数は少ないですが、作品を見る目を持っています。そういったコレクターがいることが、私たちが日本でわざわざギャラリースペースを用意し、展覧会をしようとする理由のひとつです。

 だから、私たちのギャラリーは主に投資を目的とするコレクターと直接的には関係がありません。そういったコレクターは、作品をより高い価格で転売し、利益をあげたいと思っていますからね。私たちのギャラリーを訪れることはないでしょう。そもそも、日本のコレクターには、資産を増やすために作品を買うことを目的としている人が少ないので、その意味では世界のほかのアート市場と比べても良い環境にはあると思います。

美沙子 ただ、これはアートへの誠実さを持った人がたくさんいるというポジティブな話に終始するわけではありません。日本に充分なアートの市場が存在しないということでもあります。若いコレクターで、低予算からでも買ってみようという方々が増えてはいますが、先にジェフリーがお話したように、絶対的に日本にはコレクターの数が少ないので、国内市場だけでギャラリーを成立させることは難しいですね。

ローゼン美沙子。MISAKO&ROSENにて

ーーコレクターの作品購入のための予算は、一般的にどれくらいが限度なのでしょうか?

ジェフリー リチャード・オードリッチが、MISAKO & ROSENで4回目となる個展「“Sings”」を開催しました。彼の作品は、2010年の最初の個展「リチャード・オードリッチ」のときは3500ドルから4000ドルで購入できました。13年の2回目の個展「ツインズ」では7000ドル前後で、国内市場で販売が成立しやすい金額でした。ところが16年の3回目の個展「Eight Paintings」のときには、すでに主な作品の価格が2万5000ドルになっていました。3回目の個展のとき、純粋な国内市場で販売できたのはたったの1件でした。3回目の個展の時点で、国内市場では高すぎて、オードリッチの作品の販売を成立させるのが難しい状態となってしまいました。オードリッチの展覧会を国内市場のみで成立させるのは、困難になっています。

美沙子 オードリッチの場合、初期に作品を購入したのは熱心な日本のアートコレクターさんでした。素晴らしいコレクターさんです。しかし、絶対的人数の問題がここでもまた生じます。アート市場を理解していて、オードリッチの作品がなぜここまで高いのかがわかっている、新たなコレクターをすぐに見つけることはできません。

ジェフリー 個展を重ね、アーティストの評価が高まっていくにつれて、コレクターたちの予算にも限界が出てきます。06年に私たちがギャラリーをオープンした当時、作品を購入してくれたコレクターさんはまだ若い人たちが多かったです。そのコレクターさんたちと一緒に、私たちも成長しました。これからも理想は、できれば、アーティストが成功すると同時にギャラリーも成長し、コレクターも成功していくということです。

美沙子 オードリッチの例で言えば、作品が日本、ヨーロッパ、アメリカの美術館に収蔵されたことで、コレクターさんたちは喜んでくれています。彼らのコレクションの中に、美術館に収蔵されているのと同じアーティストの作品があるわけですからね。その点からも、美術館に作品を販売し、収蔵してもらえるのは重要なことになってきます。さらに、美術館のコレクションと同じレベルのアートを日本国内で買うことが可能であるという証明にもなるのです。

ジェフリー このような、日本のコレクターが持っている情熱とエネルギーを尊敬していますし、ギャラリーとコレクターは互いに支え合っています。しかし同時に、ギャラリーはあくまで商業ベースなので、国内市場におけるコレクターの数が多くはない、という壁に常にぶつかることになるのです。

美沙子 しかし、日本の美術館には、毎年なにかしらの作品を納めていますので、海外の市場に完全に頼りきっているとも言えません。

リチャード・オードリッチ 「“Sings”展 」2019

ーー日本のアート市場の規模が伝わってくるエピソードですね。

ジェフリー 日本を拠点にするメリットもあります。国内市場は小さく、そして若いので、世界のほかの国のアーティストと比べると、高いレベルの作品が比較的低価格で購入できます。そして、まだ発展段階のアートの成長を支えられる、素晴らしい機会を得られます。また、アートビジネスの観点からは、非常に質の高い作品を低価格で手に入れられる市場だとも言えますし、その魅力もあります。

ーー現在の世界のアート市場の状況をどのようにとらえていますか?

ジェフリー ものすごくポジティブにとらえれば、世界のアート市場が成長することによって、私たちが販売している作品が評価され、より高価な作品を販売できるようになるとも考えられます。しかし、市場というのは常に変動するもの。アート業界は確かに上昇気流に乗っていますが、いまの状況は、私たちがギャラリーをオープンして間もない08年に起きたリーマン・ショックによるアート市場の崩壊、その崩壊直前の状況と似ているかもしれません。ただ、ちょっと違うのは、その動きはすべての層のアート市場ではなく、高い作品のみを扱うような、エスタブリッシュされたアート市場に限っての動きということです。

 世界にはお金を持っているアートコレクターはたくさんいますが、彼らはガゴシアンやペースといったメガギャラリーから作品を買っています。私たちのようなギャラリーから作品は買いません。メガコレクターは、海外の有名ギャラリーから特定のアーティストの作品を買うわけです。そこには私たちが取り扱うアーティストは含まれません。

美沙子 彼らのようなコレクターは、例えば、KAWSのような多くの人が知っているストリートアートの文脈から出てきたアーティストの作品を買うのでしょう。

ジェフリー KAWSの作品は比較的高価ですし、メガコレクターが購入の対象とすることをアーティストはよく知っています。このようなコレクターにはアートアドバイザーもしくはコンサルタントがついていて、「何を」ほしいか伝えると、アドバイザーなりコンサルタントが「どこで」見るべきなのかを教えてくれます。彼らのようなコレクターにとって「どこで」買うかは、アーティストの名前や作品のディティールよりも、もしかしたら重要かもしれません。つまりギャラリーのブランド、ギャラリーの持つアイデンティティがコレクターにとってより重要なわけです。

ーーMISAKO & ROSENは、巨大なアート市場の動きとは異なるアプローチを続けているということですね。

ジェフリー 常に動いている、大きく世界的なアート市場と距離があるわけでもなく、ものすごく密接なわけでもないのですが、ご存知のように私たちのギャラリーはオープンしてから12年、続いています。私たちはギャラリーの壁にかかっている作品や、開催する展覧会こそが、ギャラリーのアイデンティティだと思っています。ギャラリーを作品のように見ることはできません。ギャラリーのホワイトキューブであなたが何を見ているのかということが、とても重要なのです。

美沙子 おそらく、私たちはいろいろな意味で、展覧会を成功させることが大好きなんだと思います。

ジェフリー ギャラリーで開催されるプログラムには、海外のアートを日本国内に紹介する、アートアンバサダーのような意味あいもあります。日本には展覧会をメインとするクンストハレのような美術館がほとんどないですからね。自分たちが手がけたプログラムは、もし日本にクンストハレのような美術館がたくさん存在していたならば、そこで開催されていたかもしれません。

 リチャード・オードリッチは、MISAKO & ROSENでの個展と同時期に、大阪の国立国際美術館での「抽象世界 - Abstraction : Aspects of Contemporary Art」にも参加していました。同じアーティストが、小規模なギャラリーと大規模な国立の美術館でとりあげられているのです。もちろん美術館の方は、専門的な学芸員の目を持ってきちんとキュレーションという整備がなされていますが。

ーー現在の日本のアート業界において注目していることはありますか?

ジェフリー 例えばCOBRA、松原壮志朗、ミヤギフトシが手がける「XYZ collective」や、清水将吾、小林優平、高見澤ゆうによる「4649」のようなアーティスト・ラン・スペースと呼ばれる存在の出現は新しい潮流と言えますね。私たちを日本の現代美術のギャラリーの第2世代とするならば、注目すべきは彼らのような第3世代、アーティストが主導し運営するスペースだと思っています。彼らはアーティストながらアート市場をよく理解してて、アーティスト自らが自分たちの市場をコントロールする、そして最新の情報へきちんとアクセスしています。

 私たちはそういった3世代目の彼らをサポートしたり、ときには協力してもらっています。私はアーティスト・ラン・スペースが、おかしな存在だったり、向こう見ずな挑戦をする人だとは思いません。市場には、新たなエネルギーを提供できる可能性が必要です。08年にリーマン・ショックでアート市場が崩壊する前は、アーティストがギャラリーを運営するという動きはそこまで多くありませんでした。

ーーXYZ collectiveのような形態のギャラリーはかつては実現しなかったということでしょうか?

ジェフリー アーティスト・ラン・スペース自体は昔から試みられてきました。例えば、MISAKO & ROSENのアーティストの竹崎和征は、かつて自宅のアパートの1室でアートスペース「Take Floor」を運営していました。Take Floorは言うなれば20年前のXYZ collectiveのようなものでしたが、彼の展覧会は地域のこと、つまり東京で何が起こっているのかということに依拠して企画されていたと言えます。

 XYZ collectiveはより国際的です。この10年の最大の変化としては、若いアーティストが国際的なアート市場をより明確に意識しているということだと言えるでしょう。私たちの世代はそうではありませんでした。それが、いまのアート市場における最大の変化だと思います。

 この流れは国際的なトレンドで、海外でも同様にアーティスト・ラン・スペースが増えていますし、それぞれのスペースがつながってネットワークを構築しています。XYZ collectiveも4649も、そのような国際的なネットワークの一翼を担っているのです。

ーーMISAKO & ROSENが大塚に、XYZ collectiveや4649が巣鴨に、KAYOKOYUKIが駒込に立地し、これら山手線の北側に拠点をおくギャラリー同士がネットワークを構築しています。

美沙子 現在、六本木に現代美術のギャラリーが集約されている状況がありますが、六本木だけが東京ではありませんよね。上野も東京ですし、大塚も東京です。巨大な東京のなかで、便利な山手線の沿線で、しかも家賃が比較的安く、アーティストが活動しやすいのが、この山手線のエリアだと言えます。この地域に拠点を構えるギャラリーやアーティスト・ラン・スペースとの連携は大切です。かつてロサンゼルスのチャイナタウンに、ギャラリーが集まりコミュニティが形成されて大きな力になったように、私たちはコミュニティ化しなければいけません。これはとても重要なことだと思います。

ジェフリー 大切なのはアートスペースを六本木のように一ヶ所に集約しすぎないということです。現代美術を買うことは別にファッショナブルなことではないのです。ハイブランドのアパレル店舗の隣にギャラリーを持つ必要はないですから。

美沙子 もし私たちのギャラリーがハイブランドの隣にあっても、みんなハイブランドの洋服やバッグを買うだけでしょう。ハイブランドを目的とする人が買うのはアートではないです。

ジェフリー 私たちはアートと文化は重要だと考えます。それを最優先しなければ結果的に失敗するかもしれません。もし私が純粋に利益を追求する模範的なビジネスパーソンだったら、ほかの仕事をしているでしょう。例えば日本酒やジャパニーズウイスキーのエキスパートになっているはずです(笑)。

ジェフリー・ローゼン。MISAKO&ROSENにて

ーー昨今のアートフェアについてはどのような考えをお持ちですか?

美沙子 アートフェアの盛りあがりは一時期より落ち着いたと言えますが、アート市場においてはいまだに重要な役割を担っているとは思います。

ジェフリー コレクターが有名なメガギャラリーからばかり作品を購入するのであれば、私たちが出展しても人々は見向きもしません。その傾向が続くのなら、アートフェアに参加する意味は減っていくでしょう。作品を購入したいギャラリーがすでに決まっていてるからです。デパートで例えるなら、自分の目的とするブランドがわかっていて、ほかの店に立ち寄ることはめったにないという状況ですね。

 ただ、日本のアーティストを国際的に紹介できる機会としてアートフェアは依然重要ですし、国籍にとらわれずに日本のアーティストを見てもらえるチャンスなのです。

 アートフェアとは違い、注目すべき新しい取り組みとしては、ロンドンで2016年から始まった「CONDO」です。いまでは世界の様々な都市で開催されています。ロンドンのローカルギャラリーがホストとなって、世界のギャラリーとともに展覧会を行う取り組みで、展示はロンドンの各ギャラリーで行うため、アートフェアのような莫大な経費は発生しません。私たちも毎年参加していて、2019年は「サザード・リード」というギャラリーとコラボレーションしました。いつものようにギャラリーにやってくるロンドンのコレクターが、MISAKO & ROSENのアーティストの作品を見るチャンスに恵まれます。

美沙子 6月にはスイスのバーゼルで開催された「JUNE」という新しいアートフェアがありました。招待によってのみ出展できるアートフェアです。アートバーゼルやリステと同時期に開催されます。

ジェフリー 私たちは日本で唯一参加したギャラリーで、奥村雄樹と高橋尚愛の作品を展示しました。JUNEに参加した13のギャラリーは、私たちと同じような中堅と、もうすこしエスタブリッシュされたギャラリー、もしくはノンプロフィットのアートスペースでした。ただ、JUNEではギャラリーの規模は重視されていません。ほとんどのギャラリーが取り扱いアーティストの個展、もしくはおもしろいキュレートリアルな志向を持った企画を、精巧なプレゼンテーションとして展示していました。「展覧会ベース」というのが、JUNEの最大のコンセプトなのです。参加ギャラリーが提案する展示の内容が重視されているわけです。

美沙子 企画発案したのは、オスロにある「VI,VII」と、コペンハーゲンの「Christian Andersen」というギャラリーです。彼らはこれまで別のアートフェアの常連でしたが、バーゼルに、なにかおもしろくて新しいプロジェクトが必要だということで、今年開催することになりました。私たちはアートバーゼルのような巨大なアートフェアがあるということをきちんと認識しながら、違うおもしろい方法でのアプローチを模索しています。

Condo 上海 2019 Aike GalleryでのMISAKO & ROSENの展示風景
JUNE 2019 MISAKO & ROSENの展示風景(左側の壁)

ーー美沙子さんは小山登美夫ギャラリーで、ジェフリーさんはタカ・イシイギャラリーでそれぞれ勤務されていましたが、その経験は現在のギャラリー運営に影響していますか?

ジェフリー 私たちは、小山登美夫氏や石井孝之氏にとても影響を受けています。ですが、ちょっと違った動き方をしているかもしれません。おもしろいことに、出展するアートフェアやプロジェクトは、半分一緒で半分違います。それは単純に世代も違えば、取り扱うアーティストのタイプも違うので、自然にそうなっているのかもしれません。小山さんや石井さんは国際的なギャラリーですよね。この状況こそが、自然と私たちが国際的な視野を持った要因なのだと思います。

美沙子 私たちにとって、もっとも重要なことは、小山さんと石井さんがともに日本の現代美術の世界に国際的な視点をもたらしたことです。その点において、私たちが学び、参考にしたことはとても多いと言えます。そして、小山さんと石井さんは、いつも見ていて「アートが好きなんだな」と思うことが多いです。とてもカルチャラルなギャラリストですよね。

ーー最後に、作品を見るためのあるべき姿勢について、おふたりの考えを教えてください。

ジェフリー 誰もが自分が所属する文化的なバックグラウンドからアート作品を見ていて、とくに現代美術の作品を見るときは、考える必要のない批評的な情報が大量に頭の中にあると思います。それはもしかしたら、いきなり考える必要のないことかもしれません。現代美術について多くの知識を持っている人はいますが、現代美術のほとんどが、知識のあるなしにかかわらず、すべての人にとって見ることができるものです。そのことはとても意味があるし、興味深い。現代美術はアートのエリートだけのものではないんです。批評的な観点が必要とされるとともに、だれもが美術を楽しめることが重要です。

 私自身は現代美術についての本を読むことが好きですし、哲学を勉強していました。だから、芸術作品について論説を書くことや、作品について文脈を踏まえながら考えることは重要だと考えています。ただ、それだけだとつまらないですよね。

美沙子 作品の解説テキストを見る前に、作品をよく見てほしいです。ディティール、素材感、色などから知ることができることは多い。そういった基本的なところから、作品を見る目が養われていくと思います。現場100回というように、好きなものは何回も見たらいいですし、たくさん見たほうが楽しいと思いますよ。