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INTERVIEW - 2019.8.9

デジタルから離れた世界でピクセルアートを描く。アーティスト・HINインタビュー

レトロゲームの低解像度の描写から派生した、正方形の組み合わせからなる「ドット絵」。しかしここ数年はゲームの要素としてではなく、インターネット上で鑑賞するための作品「ピクセルアート」として新たな潮流を生み出している。今年2月には、世界最大となるピクセルアートのオンラインコンテスト「SHIBUYA PIXEL ART CONTEST」の3回目が開催。そのなかで、ピクセルを再定義し、もっとも独創性に富んだ作品を褒賞する「Beyond Pixel Art賞」に選ばれたのが、アーティストのHIN(ヒン)だ。従来のピクセルアートはゲームから派生した作品が多いなか、アプロプリエーションや美術史などをバックグラウンドに持ち、ギャラリーでの展示を積極的に行ってきたHINに、受賞するまでの経緯を聞いた。

聞き手・構成=高岡謙太郎

HINと、SHIBUYA PIXEL ART CONTEST 2019で「Beyond Pixel Art賞」を受賞した絵画作品《untitled》(取材時にはディスプレイに表示)
撮影=高見知香

コンセプトは「デジタルデトックス」

━━HINさんは「ピクセルアート」といっても、テジタルディスプレイではなく絵画をメディアに用いているのが印象的です。まずはHINさんの作品のコンセプトをお聞かせください。

 作品のコンセプトとしては、主に「デジタルデトックス」を意識しています。いま、デジタルの世界とリアルな世界は一緒になってきていて、もう絶対に切り離せない状況ですよね。それには良い面と悪い面がありますが、まず私が感じることは情報過多だということ。私自身も情報を取り込み過ぎてしまい、それに飲み込まれがちです。そのうえで、デジタルデトックスをしたもっと感覚的な世界を絵画で描きたいと思いました。デトックスをテーマにしながらもデジタルの表層を用いる矛盾には、私の「何事にも別の面が必要」という考えが反映されています。

 また、手法としては、ピクセル(ドット)という画面上の二次元の現象と、スプレーを噴射して液が垂れる現実の現象を組み合わせた手法を「ヴァーチャルスプレー」と名付けて制作しています。情報過多の状況が抽象化された象徴としてピクセルを用い、ラフでリラックスした感覚的な世界を表現しています。

━━HINさん自身が、作品制作を通してデジタルの情報から離れたいという思いがあるのでしょうか?

 そう思います。私の絵画では、デジタルの情報過多な世界とは対極の世界を表現しています。

 じつは当初、私の制作コンセプトは「塗り絵」でした。それは、私自身が色で癒された経験をきっかけに制作する意欲が湧くようになったので、色で遊び、癒される「塗り絵」の要素がぴったりだと思ったからです。「デジタルデトックス」は、そうしたセラピーの要素、デジタル情報に対する私の考えをより的確に言い表せるコンセプトだと思いました。色はただ感じるもので、余計な情報が必要ないのが良いです。

━━作品においては、ピクセル(ドット)とともに色が大切な要素になっているんですね。

 はい。私は美大を卒業後、デザイン事務所で働いていましたが、重労働で辞めてしまっていったん実家に戻ったことがあるんです。この先グラフィックデザイナーになると漠然と考えていた進路が白紙になり、どうしたらいいかがわからなくなって悩んでいた頃に、本屋のアートの書棚にあったミッフィーの本をたまたま手に取って眺めていたら、なぜか元気が出たんです。

 落ち込みがちだったけれど、書籍の本文に入る前の色が付いた紙(別丁扉)がエメラルドグリーンでとても綺麗に思えたり、東京都現代美術館でアンディ・ウォーホルの絵を見て強烈な色彩体験をしたり、そういった色彩や絵を見て救われた実体験が根底にありますね。自分は記憶力が悪いのですが、そのときの感動は覚えています。​

SHIBUYA PIXEL ART CONTEST 2019で「Beyond Pixel Art賞」を受賞した《untitled》(2018) 91×72.7cm

​ 受賞作品も色を大事にしました。応募した際の作品のタイトルは《untitled》ですが、テーマは「Still Life」です。私は美術史が好きで、いままでに様々な作品を見てきましたが、絵画の基本でもある静物やインテリアを描きたかった。この作品はトイレにいるときに、壁から足が出ているシチュエーションがパッと浮かんだので、それを絵にしたんです。自分のスタイルは徐々に変化していますが、これは感覚的に描けました。

━━制作にはどれくらいの時間がかかりましたか?

 スプレーが乾く時間を含めると約1週間かな。色が塗られている部分は基本的にスプレーです。ピクセルの部分はマスキングテープを張って塗装して、ポスカやアクリルで塗っている部分もあるので、手間がかかっています。デジタル機材は下書きのみです。やはりスプレーを使って描いているときが、一番自由を感じて楽しいですね。大きな作品になると神経を使うので肩や首に疲れが貯まりますが、嬉しいですし達成感があります。

 最初は勢いや思いつきで制作していましたが、作風を変えながらつくり続けることで、言いたいことも絵の中でどんどん言えるようになってきました。

━影響を受けたアーティストはいますか?

 大勢いますが、マティスは一番好きですね。ピカソも。日本人では南川史門さんやヒマ(平山昌尚)さんが好きですね。ふたりともすごくラフに絵を描かれていて、情報が詰まった頭にはとても良いです。あとは、リチャード・プリンス。アプロプリエーションに関する本にプリンスが載っていて、とても共感しました。私がサンプリングをやってみたいと思ったのは、彼の作品がきっかけです。

By the summer garden 2019 45.5×38cm

コンテスト参加のきっかけ

━━SHIBUYA PIXEL ARTに応募したきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

 昨年のSHIBUYA PIXEL ARTの展示をたまたま見に行って、そこで展示していたアーティストのZennnyanさんが、私の通った予備校の先生だったんです。お互いに現代美術への興味があり、私がつくったピクセルの作品をZennnyanさんに見せるうちにコンテストに興味が出てきて、私も参加してみようと思いました。Zennnyanは私に「アートは構造だよ。HINさんの作品にはちゃんと構造があるよ」と言ってくれて、そういう見方をしてくれる人もいるんだなと思い、励みになりました。

━━ピクセルアートのアーティストにはゲーム文化派生のかたが多いのですが、ZennnyanさんとHINさんは美術の知識があるのが珍しいですね。ゲーム派生の応募者が多いなか、コンテストに参加するのはハードルが高かったですか?

 「SNSにハッシュタグをつけて投稿するだけ」という参加の方法が気楽だったので、ありがたかったです。自分は他の参加者とは作風が違うかもしれないけれど、Zennnyanも参加していたのもあり違和感を受けませんでした。

Adult Coloring(Lady in Blue) 2019 53×45.5cm

━━HINさんはゲーム文化に対して何か思いはあるのでしょうか。

 あまりゲームに触れずに生きてきたので……。『どうぶつの森』くらいかな。私にはゲームとピクセルのつながりはないです。

━━そうなると、HINさんにとってのピクセルを用いた親密な文化はなんですか?

 自分にとってのピクセルは、Windowsのお絵描きソフト「MSペイント」ですね。幼い頃からパソコンで絵を描くことも多かったので。最近は、自分の中で気楽に描けることやどこでも描けることが大事なので、下絵を紙とペンではなくiPadで描いています。

━━授賞式に参加して、現在のピクセルアートのシーンをどう思われましたか?

 個々の作家が活動されているのを間近で見られる機会ができたのが刺激になりました。Yacoyonさんの作品がおしゃれでいいなと思ったり。私の他にも美術界隈でピクセルを使っているかたと出会って、仲間がいることがわかりました。

HIN 撮影=高見知香

━━HINさんが受賞された「Beyond Pixel Art賞」はピクセルアートの可能性を広げていくための賞ということで、HINさんの作品にとてもぴったりな受賞だと思いました。HINさんは賞を意識したうえで作品を投稿したのですか?

 どういった賞があるかを調べていましたが、普通に作品を投稿しただけなので特に意識はしていませんでした。なんとかすべりこめて、すごく嬉しかったです。作品を郵送したり、説明を書かずに参加できるのもよかったですね。

━━説明抜きで参加できたというのが今回のコンテストの良さでもあるんですね。

 コンセプトを聞かれることもあるので準備はしていますが、なかなか自分の口から出てこないので(笑)。自分の中でまだコンセプトをズバッと言えないのが悩みでもあります。

Livepaint 2019 窓にスプレー、ポスカ

━━今後、個人で挑戦していきたいことはありますか?

 より絵の完成度を上げて、絵のオーラを出していきたいです。あとは、ライブペインティングや壁画など公共空間に進出していけたらと思います。先日タイのプーケットに旅行に行って楽しかった経験を落とし込んだ新作を含む展示を東京、京都で行います。

 あとは、スマホから入ってくる自分にとってあまり大事ではない情報よりも、もっと自分の生活をきちんとしたり、花が綺麗だと思う瞬間を大切にしたい。そういった想いを伝えていけたらと思います。

Mellow out : Phuket 2019 45.5×45.5cm