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2019.2.11

バンクシーを継承しながら、路上とインターネットをつなげる。ラッシュ・サックスインタビュー

インターネット時代のグラフィティ・ライターにして、ネット上のネタ画像を題材にする「Meme Artist」のラッシュ・サックス。スケート・ブランド「FTC」のキャンペーンのために来日した作家に、ミレニアル世代のアートについて話を聞いた。

文=松下徹(SIDE CORE)

中央がラッシュ・サックス © SHDW.gallery
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インターネットと路上を直結させるポスト・バンクシーの新世代

 十数年前、オーストラリアのメルボルンに、電車にグラフィティする過激な女性ライターがいたが、警察沙汰でグラフィティを辞めてしまう。するとその元恋人が彼女のライターネームを盗み「LUSH」と名乗った。新LUSHはストリートで目立った存在となり、彼のヘイターたちはLUSHのグラフィティに「SUCKS!」(マヌケ野郎)と書き足した。LUSH SUXというアーティストはそのように誕生したのだ。

 「ストリート・アートは死んだ。俺こそが世界初のMeme Artist(ミーム・アーティスト)だ」。

 Meme(ミーム)とは、SNSやフォーラムで匿名でつくられ、消費されていくネタ画像のことである。ラッシュ・サックスの活動のひとつは、そのようなMemeをグラフィティに、あるいはグラフィティをMemeにすることで、インターネットとストリートを連結させる、インターネット時代のグラフィティ・ライターである。

 Memeはいわば、SNSの内輪ネタにすぎない。一部のギークたちが盛り上がった内容が画像になって、拡散されては消えていく。時に非常に哲学的な内容や、政治批判的なネタを含むが、その多くはポップ・カルチャーやサブカルチャーの二次創作で、局所的な文脈を知らなければ到底理解しえないような内容である。

 極度な暴力性を持ったものから変態性を有したものまで、これまでにありとあらゆるナンセンスな題材をグラフィティにしてきたラッシュが最近行き着いたのは、そのようなキッチュの極みを都市景観に投影していくということであった。

 「最近考え始めたのは、俺が自分で絵をつくる必要があるのか?という疑問だった。だってネットには無限にMemeを生み出すアーティストたちがいて、自分もそれに参加すればいい。俺はグラフィティ・ライターだから、俺の役目はそこで面白いと思う絵を壁に描くことなんだ」。

 インターネット・アートというフレーズは広く使われているが、真にコアなネット・シーンと連携しながら作品を発表しているのはラッシュぐらいだろう。実際に、PewDiePie(ピューディーパイ)という世界一チャンネル登録数が多いユーチューバーもラッシュのファンのひとりだ。

ヒラリー・クリントンのMemeを描いた壁画 © SHDW.gallery

路上から世の中に問う