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「やんばるアートフェスティバル」はほかの芸術祭と何が違うのか?

今年12月9日から沖縄本島北部地域、通称「やんばる(山原)」を舞台に開催される新たな芸術祭「やんばるアートフェスティバル」。そのメディア向けプレスツアーが、会期に先駆け10月末に実施された。「作品がないプレスツアー」となった今回。そこにはどういう狙いがあったのか?

やんばるの夕焼け 撮影=仲程長治

沖縄で開催される芸術祭ーーそう聞けばたいていの人は、中心部である那覇での開催をイメージするのではないだろうか。しかし、今年新たに始まる「やんばるアートフェスティバル」は、その名の通り沖縄県北部地域=やんばる(山原)が主会場のアートフェスティバルだ。

やんばるの観光名所である古宇利大橋 撮影=仲程長治

12月の本会期に先駆け、10月末にメディアを対象にしたプレスツアーが行われた。しかしこれは異例のことだ。通常、芸術祭がメディア向けにツアーを開催する場合、ほぼすべての作品が設置されてからのケースが多いが、今回のやんばるでは、一切の作品が設置されていない状態でのツアー開催となった。

ではなぜ主催者はこのような試みをしたのか? それには「やんばる」という地域の知名度が関係しているという。沖縄に旅行に行く場合、多くの人が訪れるのは那覇を中心とする本島南部地域であり、北部のやんばるの注目度は相対的に低い。そこで、まずはこの地域そのものが持つ魅力を「アート抜きで」知ってもらおうというのが、今回の主旨だった。

やんばるに残る豊かな自然 撮影=仲程長治

そもそも、やんばるでアートフェスティバルを行う意義とはなんなのだろうか? やんばるは、2016年9月に国内33ヶ所目の国立公園「やんばる国立公園」に指定された自然豊かな地域。国内最大級の亜熱帯照葉樹林が広がるこの場所には、ヤンバルクイナなど多種多様な固有動植物や希少動植物が生息・生育しており、2018年の世界自然遺産登録を目指す機運が高まっている。

しかしながら、世界遺産は登録されると観光地化が加速度的に進み、その結果、自然が破壊されてしまう(環境に負荷がかかる)というケースも少なくない。そこでやんばるアートフェティバルでは、人と自然との間にアートを置くことで、その自然環境を維持しようという目論見があるのだという。

会場のひとつである大宜味村立旧塩屋小学校は海に面した立地

ここまで見ても、本アートフェスティバルは地域振興を第一義とした芸術祭とはやや毛色が違うことがわかる。

そして、その構造自体もユニークだ。通常、地域の芸術祭は、その自治体が主体となり、アートディレクターを立てるかたちで運営が進められる。しかし、「やんばるアートフェスティバル」を主催するのはよしもとエンタテインメント沖縄。つまり、主体は民間企業であり、自治体はあくまで「協力する側」となっている。

これを聞くと、吉本興業がアート事業に乗り出したかに見えるが、実情はそうではない。同社は沖縄において2009年より毎年「沖縄国際映画祭」を開催するなど、タレントマネジメントや劇場事業以外にも様々なコンテンツビジネスを展開しており、このアートフェスティバルもその一環。

会場のひとつである海洋博公園。ここには淀川テクニックの作品が設置予定

しかし、同社は芸術祭のノウハウを持っているわけではない。だからこそ、本アートフェスティバルには「芸術と創造」代表理事・金島隆弘や「山本現代」ディレクター・山本裕子、『芸術新潮』編集長・吉田晃子など外部の人材がアドバイザーというかたちで参加している。これも大きな特徴の一つだろう。

加えて、参加作家にも注目したい。椿昇や淀川テクニック、西野亮廣など、エキシビション部門では関西の作家に加え、 紫舟や高木正勝、藤代冥砂ら全29組が名を連ねる。さらに特筆すべきは、クラフト部門の参加者たちだ。大型の地方芸術祭では、国内外で活躍しているアーティストが中心で、地元の作家たちはあまり日の目を見ないのが実情だろう。しかし今回は、やんばる地域の陶芸、漆芸、ガラスなど、21組の工房やアーティストが一堂に集い、作品を展示・販売する。

このクラフト部門が誕生した経緯について、運営担当スタッフはこう語る。

「このイベントの立ち上げ当初、地元の皆さんと打合せを重ねるなかで、芭蕉布や間伐材でつくる木工クラフトなどの地元の工芸品を知り、これらをもっと県外・海外の人に知ってもらわなければいけないと感じました。また、これらの工芸品は、知名度は低いですが、クオリティは一級品。パッケージなどのデザインやPRをもっと工夫すれば、絶対にファンは増えるということも確信したんです。これらのディレクションをお願いする人を探し、スタイリストの熊谷隆志さんを訪ねたところ、快諾いただいた。その結果、やんばるアートフェスティバルの目線で、沖縄とやんばるのクラフトをキュレーションし、紹介するという部門が生まれました」。

芭蕉布会館

プレスツアーでも、沖縄伝統の織物である「芭蕉布」や、鮮やかな染色品「びんがた」などの工房を訪れる機会が提供され、地元の職人がその製作工程を丁寧に説明してくれた。また、会期中に行われるツアー(要予約)では、与那集落で地元の食材を使った昼食も提供するなど、やんばるが持つ魅力をいろいろな側面から楽しむこともできる。

城間びんがた
与那集落で提供された昼食では地元の食材をふんだんに使った手料理が楽しめる

様々な試みを垣間見ることができた「やんばるアートフェスティバル」。12月の開幕はどのようなインパクトをもたらすのか、要注目だ。

やんばるの夕焼け 撮影=仲程長治

編集部

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