忙しい毎日に追われる現代人に、アート作品でリラックスやインスピレーションを提供することを目指すアプリ「Mellow」。昨年9月1日〜11月30日の期間中に同アプリが開催した初めてのアワード「Mellow Art Award 2020」では、シンガポール出身のアーティスト、ヌール・ムナワラ・フサインが大賞に選出された。
1996年生まれのムナワラは、映画監督、写真家として活躍。シンガポールのナンヤン芸術アカデミーでディプロマプログラムを修了後、現在はノースウェスタン大学(カタール・キャンパス)のメディア産業とテクノロジー学部に在学している。
映画の撮影現場に積極的に参加し、自分自身を成長させ挑戦し続けているムナワラが祖母を描いたドキュメンタリー映画『Plintik』は、日本、シンガポール、インドネシア、バーモント州の映画祭で上映され、多数受賞。また、写真撮影にも情熱を注いでいる彼女は、「シンガポール・フォトグラファーズ・アワード2019」にて金賞と銀賞を、ニューヨークで開催された「インターナショナル・フォトグラフィー・コンペティション2019」でノン・プロフェッショナル部門で第3位を受賞している。
今回の「Mellow Art Award 2020」では、「あなたの作品が世界を癒す」をテーマに世界中から1万3000点以上の作品を集めた。受賞作品《雨の日のカワプティ(Rainy Day in Kawah Putih)》は、インドネシアのバンドンにある火山湖・カワプティで撮影した写真。本作の制作背景について、ムナワラは次のように語っている。
「撮影した日は小雨が降っていて、バンドン(インドネシア3番目の大きい都市)のカワプティは霧がかかっていて、まるで魔法のようでした。私は、私が見ていた光景に畏敬の念を抱いていました。エリアの周りを歩いて、湖の近くに立っているふたりを見ました。彼らはかなりの時間の間にそこの場所に立ち、湖面に反射されているように見えます。その時のそのシーンは非常に穏やかに見えたので、それは私が写真をキャプチャするための完璧な瞬間だと思いました」。
アワードの審査員を務めたのは、佐久間裕美子(文筆家)、早川克美(京都芸術大学芸術学部教授)、山口周(独立研究者、著作家)、田尾圭一郎(「美術手帖」ビジネス・ソリューション・プロデューサー)の4名。早川は、本作について次のように評価している。「一瞬をとらえた写真なのに、そこにいる人たちの穏やかな話し声や笑い声がかすかに聴こえてくるような、ゆったりとした時の流れが感じられます。空間の温度や湿度さえも伝わってきて、その表現の奥行きに、魔法に包まれたような心持ちになれました。不思議で優しい作品です」。
また佐久間は、「我々人間は、慰めや癒しを求めて自然に目を向ける傾向があります。自然の美しさには確かにそのような効果もありますが、時として自然は荒々しく、人間の手に負えず、まるで罰せられているかのように感じる時もあります」としつつ、「自分よりも大きな不可抗力のなかで生き続ける私たちにとって、平和と静けさの流動的な本質と同時に、私たちの多くが共感するような無力感をとらえています」とコメントしている。
ムナワラは、「この賞を受賞したことで、写真への情熱を追求し続けることができました。オーディエンスの皆様は、この慌ただしい生活を直面しながら、私の写真でゆったりとした流れと静けさを感じていただければ幸いです。 Mellow Art Award 2020に感謝します。私はこの経験に心に銘じ、謙虚な気持ちを忘れずに頑張り続けたいと思います」と、受賞の感想を語っている。
身近なテーマを平和やリラックスを感じる手法で表現
身近なシーンを題材とした映画やドキュメンタリー制作に意欲的に取り組んできたムナワラは、これまで多数の作品を発表している。例えば、「学校で学んだこと(What I Learned in School)」はケニア・ナイバシャにある小学校のコミュニティ感を表現した写真シリーズ。友達関係を築き、対人関係のスキルを身につけることで、コミュニティのなかに自分のアイデンティティを見出す学校で、生徒たちが自分たちの学校に大きな誇りを持ち、地域社会への奉仕などを大切にしている姿を見出している。
同じくケニアで撮影され、そこに棲息している野生動物を紹介する写真シリーズ「彼らをワイルドにさせて(Let Them Be Wild)」は、野外で自由に歩き回っている動物たちの姿をとらえたもの。ナイロビの高層ビル群を背景に、野生と広大なサバンナが並置される様子を表現した写真群は都市と環境について考えさせ、都市に住む人々がこれらの動物たちの土地を侵食するまでにどれくらいの時間が残っているのかという疑問を投げかける。
また、パンデミックが始まってからスタートしたプロジェクト作品「クアランティーノ、ザ・ニューノーマル(Quaranti-no, the New Normal)」は、デジタル写真をコラージュし、隔離期間中のムナワラの想いや生活を綴ったもの。良い日と悪い日を同時に提示することで、母国ではない海外で隔離された経験を忠実に語る。
こうした制作について、ムナワラはこう振り返っている。「私の写真には、普段から静けさや穏やかさを感じさせるものが多い。本来、私は人生に対しても平和やリラックスを求めるのが好きなタイプの人間なので、無意識のうちにこのようなスタイルを選択しているのだと思います。私は普段他人に見られないような瞬間や人々の一面を撮影したり、記録したりするのが好きで、祖母のドキュメンタリーではいつも人に厳しいように見えている彼女の愛情深く、親切な一面を表現しています。かなり内向的な性格なので、写真や映画制作は自分の考えや感情を表現するための手段だと思っています。写真や映画は、私たちの周りの人々、そして最終的には自分自身をよりよく理解するための強力なツールだと信じています」。
ムナワラは現在、《レイラのための愛(Kasih Sayang Untuk Layla)》という大学出資の短編映画を制作中。自身の母や祖母との経験に基づいた本作では、ある少女と祖母や母との関係、そして彼女たちが互いに愛と情を示す様々な方法を描く。「スタッフ、キャスト、そして私が愛情と情熱を込めて作った作品なので、出来上がりを見るのがとても楽しみです。また、現在は友人たちとコンセプチュアル写真のアイデアを中心とした撮影プロジェクトに取り組んでいます。今後の作品で、より多くの人に触れてもらいたいと思っています」。
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騒々しい日常に追われる現代人が、隙間時間にリラックスやインスピレーションを感じることができるようなコンテンツと時間を提供するアプリ「Mellow」は、2020年12月にiOS版をリリースしてから世界中のユーザーから多数の支持を得て、21年半ば頃にAndroid版のアプリをリリースすることを計画している。
ユーザーは毎日、自分の好みに応じた作品を受け取り、気に入った作品を保存することができる。受け取る作品には、世界的に有名なアートだけでなく、現代アートシーンで活躍するアーティストによる作品も配信したいと考え「Mellow Art Award 2020」を開催した。Mellowは様々な文化背景を持つ一人ひとりの好みを自動学習し、幅広いユーザーの好みと作品をマッチング。そのコンテンツを見た人が、ハッピーな気持ちになったり、安らいだり、何かインスピレーションを感じてもらったりすることを目指している。
今回のアワードについて、Mellowはこうコメントしている。「『あなたの作品が世界を癒す』の募集テーマは世界中の多くのアーティストに共感していただき、当初の予想を遥かに上回るご応募ありがとうございました。皆様からのご応援を心より感謝しています。今後も『Mellow』アプリを通じて、アートで世界中にリラックスやインスピレーションを届けると同時に、アーティストの皆様の持続可能な創作をサポートしていきたいと思います」。