自然環境と共存するクラフツマンシップ。写真でたどる、レミーマルタンのものづくり

フランスで1724年に創業した歴史あるコニャックメーカー、レミーマルタン。 プレミアムコニャックをつくり続けてきた同社は、生産者とのパートナーシップを重視し、 環境に配慮したシステムづくりにも取り組んできた。そのものづくりのスピリットを、 若手写真家・原田教正が現地で撮り下ろしたビジュアルとテキストで紹介する。

撮影・文=原田教正

フランス・コニャックにて、「レミーマルタンXO」のボトル

土地と環境、 変わらないものづくり

 シャルル・ド・ゴールまで羽田から約13時間。目的地のコニャックまで、長旅はいましばらく続く。ボルドーを目指して国内線を乗り継ぎ、さらに車で2時間。初めてのフランスがコニャックだなんて珍しいにちがいない。真っ暗な夜道をひた走ると田舎町の小高い丘を満月が照らし、辺りには延々とブドウ畑が広がっていた。本当にどこまでも、延々と。もう300年も変わらない景色らしい。

コニャックのレミーマルタンセラー
生産者とセラーマスター。サスティナビリティを重視したコニャックづくりを支えるのは、この地域のテロワール(土地の性質)を愛する人々だ

​ ブランデーの最上級酒の名であり、フランス西南部の地域を指す「コニャック」という言葉。17世紀の激しい気候変動と宗教戦争によってヨーロッパ全土が疲弊するなか、この地では農夫が忍耐強くブドウを育て、生活の糧を得てきた。高級酒と呼ばれる酒は、そんな切実で素朴な彼らの営みから始まり、いまでもコニャックの景色と文化を支えている。

ブドウ畑の様子。世界中でこの土地でしか生産されないコニャックを後世に受け継いでいくため、環境に配慮した栽培を実施する

 テーブルに並ぶのは、チョコレートやドライジンジャーにコンフォート。一口含んだコニャックの味を追いかけるように、小さな洋菓子に手を伸ばす。なんと淑やかな光景だろう。日本では馴染みが薄いが、日々のランチやディナーと合わせて楽しむ様子も、ここでは日常のひとつだ。レミーマルタンがこの地に創業して295年、その由緒の正しさは「日本から何をしに?」という街角での問いに「レミーマルタンに」と答えれば、彼らの表情が物語る。

2014年よりレミーマルタンのセラー マスターを務めるバティスト・ロワゾー

 古くからこの土地に根ざすワイングローワー(ブドウ農家兼ワイン醸造家)を誕生のルーツに、サスティナブルな栽培などでいまも900以上の農家と手を携えるレミーマルタンは、コニャック人にとって地元の酒造メーカーと言うより、家族のような存在だ。

メゾンの中でももっとも古い「ティエルソン」と呼ばれる大樽

 コニャックはこの地域でのみ生産が許され、その熟成には4年〜数十年、100年を超えるものもある。セラーマスターはその間、後継者を指名しながら徹底して技術や哲学を継承していく。だから彼らは、軽はずみに「新しいものづくり」とは口にしない。そんな姿勢は彼らの思慮深さを思わせる。

上空から見たグランド&プティット・シャンパーニュ地域

 風のない午後、気球に乗ってコニャックを見渡すと、ブドウ畑や点在する森、未開拓地域をシカやイノシシが駆け回る。線を引くように拓かれた畑は、譜面のように美しい。「手付かずの場所を残して、環境と土壌、風景を守ることも大切な仕事」と気球を操る父さんは言った。まだ実のない冬景色にこそ、そんな背景を私は見ることができたのかもしれない。

軽食とともにレミーマルタンを楽しむ

 

編集部

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