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「死との戦いのなかで生の記憶を保存」。ハンス・ウルリッヒ・オブリストがボルタンスキーを偲ぶ

7月14日に逝去したフランスを代表する現代アーティスト、クリスチャン・ボルタンスキー。その制作テーマや代表的なプロジェクトについて、親交があったサーペンタイン・ギャラリーのアーティスティック・ディレクター、ハンス・ウルリッヒ・オブリストが振り返る。※本稿は7月22日に「FRIEZE」にて初めて公開された。

文=ハンス・ウルリッヒ・オブリスト 翻訳=室岡佑佳

クリスチャン・ボルタンスキー 撮影=稲葉真

 享年76歳、先週(編集部注:クリスチャン・ボルタンスキーは7月14日に逝去。本稿は7月22日に「FRIEZE」にて初めて公開された)パリで亡くなったクリスチャン・ボルタンスキーは、我々が知る巨匠のひとりだ。彼の彫刻、インスタレーション、写真そして映画作品は人々の心を動かし、洞察に富んでいる。制作活動の初期から、記憶、存在と不在、苦しみ、死と喪失、そして人々がいかにしてそれぞれの物語や経験を通じてつながるのかを、作品の中心的テーマとした。

 死への執着がボルタンスキーの作品の中心である。「私の人生は、死との戦いのなかで、生の記憶を保存することに捧げてきました」と2014年の『The Believer』のインタビューに答えた。「おそらく私が実行した唯一のことは、死を止めることはできないのだから、死との戦いを見せることだ」。ボルタンスキーが興味を持つようなテーマは数えるほどしかないが、「死」が最大の関心であったことは言うまでもない。彼の大規模な没入型インスタレーションでは、儚さと不朽は往々にして逆説的な相反において遭遇する。ボルタンスキーは展覧会を、現実世界と個人をつなげる公共儀式として認識していた。刷新と変化の暗示といった手法を通じて、作品を繰り返される死と記憶のテーマにつなげている。 

 ボルタンスキーは偶然性と儚さを受け入れ、往々にして同じ作品を無限に繰り返し制作し、楽譜のように、つねに新しい解釈を生み出した。これらの作品は限界への試みであり、改変、斬新、変化、導入、逸脱そして変形を示唆する試みである。彼は一度このように私に言った。「アーティストとは彼の時代のルールについて完璧な知識を持っていて、なおかつそれを回避したり、修正したりすることができる者である」と。

「Lifetime」(国立新美術館、東京、2019)展示風景より、《モニュメント》(1986)と《皺くちゃのモニュメント》(1985)

 ボルタンスキーは若い世代に非常に寛容であった。私は実際に体験した。17歳の頃、修学旅行でパリに行った際、彼に会いに行った。その出会いは私の人生を変えた。展覧会のあり方について、私の考えを一変させたのだ。展覧会は美術館の壁にモノが掛っているだけではない。「唯一我々の記憶に残る展覧会は、ゲームの新しいルールを生み出すものだ」と彼は教えてくれた。常日頃この言葉を噛みしめている。それ以降彼とは定期的に会うようになった。5年後、展覧会を意外な場所──私のキッチンで行うというアイデアをくれた。その後まもなく、私たちは別の展覧会を一緒に手がけた。それは彼の素晴らしい著書をザンクト・ガレン修道院の図書館で、中世の写本とともに展示した展覧会であった。私がパリに移り住んだのはボルタンスキーのためだった。そこで15年間過ごした。彼とはよくカフェで会って、飲み物を飲みながら、誰もやったことがない何かを私たちがやることついて思いを馳せた。 

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