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美術手帖 2020年6月号「新しいエコロジー」特集
「Editor’s note」

『美術手帖』 2020年6月号の特集は「新しいエコロジー」。本誌編集長・望月かおるによる「Editor’s note」です。

『美術手帖』2020年6月号「新しいエコロジー」特集扉より

 この「新しいエコロジー」特集の取材が始まった2月頃、日本では新型コロナウイルス感染症の影響が次第に広がってはいたが、ギャラリーや一部の美術館ではまだ展示を見ることができた。ところが3月にWHOがパンデミックを宣言、瞬く間に状況は変わる。4月、全国的な緊急事態宣言のもと、文化施設をはじめ人が集まる場所の多くは閉鎖を余儀なくされ、経済や社会制度への影響は深刻化している。

 強い感染力を持つウイルスが発生する背景を環境問題の側面から考えると、ひとつには、人間による生態系の破壊行為により、野生動物と家畜のあいだでウイルス感染が発生し、変異が起きる可能性があげられる。また、気候変動による温暖化がウイルスの媒介となる蚊などの昆虫の生息地を拡大させ、感染を広めることもあるという(ただし現時点で今回のウイルス発生の経緯は特定されていない)。

 この状況を生きる我々には、自らの生命を守るために他者に感染させないような行動をとるといった社会との関わりについて、考え方の転換が迫られるだろう。より巨視的には、地球環境との関係についても、大きな認識の変換が求められる。そのなかで、アーティストはどんな役割を持つだろうか。

 こうした視点から、本特集では新たな自然観や世界観を提案する作家たちのアイデアを紹介する。気候変動をテーマとするオラファー・エリアソンの個展(東京都現代美術館)を企画したキュレーターの長谷川祐子は、作家の役割を「複雑に絡まるモノや事象を、芸術言語(中略)を用いて翻訳し、共有、共感できるかたちにすること」だと言う。ピエール・ユイグは、細菌やウイルスと人間の共生という視点で世界をとらえ直そうと提示する。また哲学者で社会学者のブリュノ・ラトゥールは自身の企画展「クリティカルゾーン」に寄せた論考で、生命の存亡の危機にあるいま、いかにして地球そのものの概念や認識を根底から変えるかを説いている。コロナ禍の出口がいまだ見えない現在、ここで取り上げた美術の実践の数々が、より多角的な観点から、これからの生命観を考えるきっかけになればと願う。

 第2特集では、香港の民主化デモを取り上げる。2019年3月からいまもなお続く大規模抗議運動のなかで、アーティストたちはどんな表現活動をしているのか。実際に香港の区議会議員となって政治参加する作家の声や現地レポートを通して、政治的な変革期における、芸術の役割や可能性に注目したい。

2020.04
本誌編集長 望月かおる

『美術手帖』2020年6月号「Editor’s note」より)

編集部

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