EXHIBITIONS
Ichi Tashiro「Serendipity」
Gallery COMMONでは、コラージュ・アーティスト、Ichi Tashiroの個展「Serendipity」を開催する。
Ichi Tashiroは1984年愛媛県生まれ。幼い頃からスクラップブッキングやコラージュを制作。当初は現実から逃避し、空想の世界に浸るために始めたこれら趣味は、高校を卒業する頃には作家自身のアイデンティティの一部となり、18歳の時にニューヨークへ移住し、独学でアーテ ィストとしてのキャリアをスタートさせた。
渡米した当時はゴミ箱から新聞や雑誌を拾い路上で観光客にコラージュ作品を売りながら、稼いだ小銭をかき集めて食べ物を買い、夜は公園で寝る日もあれば、運が良い時は気前の良い友人宅のソファーや床で寝る日もあったと言う。そんなホームレスとして過ごした時間は、Tashiro自身の階級や価値観、社会規範、そして芸術の機能についての認識に深い影響を与えた。
その後、Tashiroはニューヨークや香港のきらびやかなギャラリーやアートフェアの世界を旅し、自由と創造性の表現としてのアートと、マーケットや政治という現実との間の矛盾の露呈をさらに実感した。そのなかでもつねに自己表現とは何か、価値とは何かという問いに直面していたTashiroは、ニューヨークで一時は生命線であった「使い捨て」のメディアに何度も立ち戻ることになる。ニューヨークと香港を経て、現在は東京を拠点に活動し、制作を続けている。
本展はTashiroの「30年間の潜在意識の研究の成果」として、30年前の作品と同じプロセスで制作された新作14点が発表される。
日常的なものから独自のファンタジーの世界をつくり出し、捨てられたものから魔法や新たな始まりを見出すという、無垢ともいえるほどストレートなアプローチ。そんな無邪気さ、不器用さも感じることのできるTashiroのシュルレアリスム的な作品は、それに付随するなぐり書きや勢いのある絵具の斑点によってさらに魅力を増す。そして、金融新聞をカラフルな世界に変身させることに象徴されている遊び心と労働社会の徒労への否定は、 Tashiroの人生哲学ともなっている。
しかし、Tashiroがキャリアを始めた頃と大きく異なり、デジタルが急速に普及している。物理的な相互作用が失われるなか、紙媒体の歴史と未来についてTashiroはこう語る。「新聞は徐々に過去の遺物になりつつ、紙媒体は無くなりつつある今。全人類の知識がスマートフォンの中に入っているし、AIはもはや人間にはできないことを簡単にこなしてしまう。そんな中、人間にあってロボットにないものは何かといえば、それは創造性だと思ってる。ひとつのルールや社会の狭い範囲の中で生きていくのではなく、遊んで、失敗して、セレンディピティに遭遇し、新しい発見を見出した時、その向こう側にある答えのない世界には、無限の可能性があるんだ」。
ランダムな裂け目と計画的な切り込みを組み合わせることで、予測不可能な失敗から生まれるセレンディピティと、自らの運命を意図的に切り開く意志、両方を受諾するTashiroの作品群。テクノロジーの進歩により、正確で瞬時に答えが出る生活になった現代において、その幻想的な作品は、想像力や創造力を育む神秘性やセレンディピティの重要性を再認識させる。
そして、Tashiroの奇抜なアプローチそのものが、社会の窮屈な構造、多様性や不適合を抑圧する偏見、圧倒的な情報の洪水による消費者心理、そして人間の表現を抑制するあらゆる力への反発を表している。
Ichi Tashiroは1984年愛媛県生まれ。幼い頃からスクラップブッキングやコラージュを制作。当初は現実から逃避し、空想の世界に浸るために始めたこれら趣味は、高校を卒業する頃には作家自身のアイデンティティの一部となり、18歳の時にニューヨークへ移住し、独学でアーテ ィストとしてのキャリアをスタートさせた。
渡米した当時はゴミ箱から新聞や雑誌を拾い路上で観光客にコラージュ作品を売りながら、稼いだ小銭をかき集めて食べ物を買い、夜は公園で寝る日もあれば、運が良い時は気前の良い友人宅のソファーや床で寝る日もあったと言う。そんなホームレスとして過ごした時間は、Tashiro自身の階級や価値観、社会規範、そして芸術の機能についての認識に深い影響を与えた。
その後、Tashiroはニューヨークや香港のきらびやかなギャラリーやアートフェアの世界を旅し、自由と創造性の表現としてのアートと、マーケットや政治という現実との間の矛盾の露呈をさらに実感した。そのなかでもつねに自己表現とは何か、価値とは何かという問いに直面していたTashiroは、ニューヨークで一時は生命線であった「使い捨て」のメディアに何度も立ち戻ることになる。ニューヨークと香港を経て、現在は東京を拠点に活動し、制作を続けている。
本展はTashiroの「30年間の潜在意識の研究の成果」として、30年前の作品と同じプロセスで制作された新作14点が発表される。
日常的なものから独自のファンタジーの世界をつくり出し、捨てられたものから魔法や新たな始まりを見出すという、無垢ともいえるほどストレートなアプローチ。そんな無邪気さ、不器用さも感じることのできるTashiroのシュルレアリスム的な作品は、それに付随するなぐり書きや勢いのある絵具の斑点によってさらに魅力を増す。そして、金融新聞をカラフルな世界に変身させることに象徴されている遊び心と労働社会の徒労への否定は、 Tashiroの人生哲学ともなっている。
しかし、Tashiroがキャリアを始めた頃と大きく異なり、デジタルが急速に普及している。物理的な相互作用が失われるなか、紙媒体の歴史と未来についてTashiroはこう語る。「新聞は徐々に過去の遺物になりつつ、紙媒体は無くなりつつある今。全人類の知識がスマートフォンの中に入っているし、AIはもはや人間にはできないことを簡単にこなしてしまう。そんな中、人間にあってロボットにないものは何かといえば、それは創造性だと思ってる。ひとつのルールや社会の狭い範囲の中で生きていくのではなく、遊んで、失敗して、セレンディピティに遭遇し、新しい発見を見出した時、その向こう側にある答えのない世界には、無限の可能性があるんだ」。
ランダムな裂け目と計画的な切り込みを組み合わせることで、予測不可能な失敗から生まれるセレンディピティと、自らの運命を意図的に切り開く意志、両方を受諾するTashiroの作品群。テクノロジーの進歩により、正確で瞬時に答えが出る生活になった現代において、その幻想的な作品は、想像力や創造力を育む神秘性やセレンディピティの重要性を再認識させる。
そして、Tashiroの奇抜なアプローチそのものが、社会の窮屈な構造、多様性や不適合を抑圧する偏見、圧倒的な情報の洪水による消費者心理、そして人間の表現を抑制するあらゆる力への反発を表している。