EXHIBITIONS

Artist Voice II:有元利夫 うたのうまれるところ

© Yoko Arimoto

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 慶應義塾大学アート・スペースの展覧会シリーズ「Artist Voice」は、小さな展示室1室という施設の特性を生かして、作家の呟きや生の声を感じ取れるようなインティミットな展示を目指すもの。第2回となる今回は、画家・有元利夫(1946〜1985)の素描を取り上げる。

 ピエロ・デラ・フランチェスカなどによるルネサンス絵画を賞賛し、自らの芸術に取り込んだ有元だが、その素描作品についてはそれほど広く知られていない。とくに作品として描かれた素描ではなく、ある対象を前にして写生したスケッチや、あるいは作品制作に直接つながっていくエスキースについては、これまでほとんど鑑賞者の目にふれる機会がなかった。

 素描とは、画家が頭のなかのコンセプトを初めて現実世界に表現するものであり、完成した作品よりも純粋な着想の表現であると言える。ある意味、作品以上に芸術家の本質に迫ることができるメディウムでもある。

 本展で展示される有元の素描を見ていくと、じつに様々な芸術世界が広がっていることに気づくだろう。有元は自らの芸術における素描類の重要性をはっきり認識していた。有元にとっての素描は対象再現的なものではなく、むしろルネサンスの素描に倣ってより線の強さと量感を求めており、「線」と「量感」こそ、芸術家の想像力が問われる場だった。

 有元は「見ているうちにどこからともなくチェンバロの調べが聞こえてくるような、そこに音楽が漂っているような画面」の制作を追求していた。本展の出品作は演奏会の音楽ではなく、バロックリコーダーを嗜んでいた芸術家が心の赴くままにアトリエで奏でる音楽に比することができるだろう。展示室に満たされた静謐な音楽に、耳を傾けてみたい。