EXHIBITIONS

富田正宣「ユーセン」

2022.02.12 - 03.20
 KAYOKOYUKIでは、富田正宣(とみた・まさのり)による個展「ユーセン」を開催する。

 富田は1989年熊本県生まれ。2013年に東京藝術大学絵画科油画専攻を卒業し、現在は埼玉県に在住し、国内外で作品を発表している。

 日本酒とつくり、木のガチャポン、夜のジャングルなど、富田にとって、身の回りの些細なモチーフや風景を収集し記録すること、物語を紡ぐこと、それらを抽出しキャンバスに描き留めていくこと、これらの行為すべてが同程度の強度を持ち、繰り返される。豊かなマチエールと複雑な色彩が特徴である富田の絵画作品からは、確かに人の姿や手、風景、花、割れた食器まで、様々な具体的なイメージが浮かび上がる。

 あらゆるモノに「姿」があると言う富田。本展で、絵画とともに展示される物語の断片や、プラスチックの板を用いた小作品は、画家の思考をめぐるひとつの手がかりとなってくれるだろう。しかし、富田の絵画に対峙した時、幾重にも塗り重ねられた油絵具の積層から浮かび上がるイメージは、見つけた瞬間に存在感を失っていき、私たちは示された「手がかり」が非常に心もとないものでしかなかったことに気付かされる。

 結んでいたはずの像は揺らめき、また別の像が立ち現われ、瓦解と融合を繰り返す。ふと気付くと、目の前に存在している、こびりつき、剥がれ、ねじくれながら凝固した油絵具の強固な物質性の前に圧倒されてしまうだろう。

 富田の知覚を通し、収集された様々なモノの「姿」が表出された時、モノに付随していたはずの意味や記号はバラバラに解けていき、絵画自身の「姿」が現出する。それは、富田という画家が認識しているこの世界の「姿」を表している。