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松川朋奈「My flower will never die」

松川朋奈 My flower will never die 2021

 松川朋奈の約2年ぶりとなる個展「My flower will never die」がユカ・ツルノ・ギャラリーで開催される。会期は1月29日〜2月19日。

 松川は1987年愛知県生まれ。2011年多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。同世代の女性や自身と同じ状況を生きる女性へのインタビューを重ね、そのなかで印象に残った出来事やフレーズを絵画のタイトルや場面として選び、日常の痕跡や仕草に表われる人間の内面や関係性、またそこに生まれる葛藤や願いを表現してきた。

 クロースアップされ写実的に描かれた日常の一場面や事物。松川は、これらに光の劇的な効果を用いることで、静かに佇みながらも際立つ印象を作品に残す。松川が年齢を重ねるたびに自ずとその表現する主題は変化してきており、近年は、初期作品に登場していた「若い女性」たちが「母」へと変わっていったり、身体の老いを身近に感じるようになったり、年齢とともに変化する女性たちの不安や痛み、弱さといった複雑な内面を受け入れ、肯定するような方向性へと作品を変容させている。

 とくに、シリーズ作品「Love Yourself」(2018〜)は、自身も含め、親として生きる女性が直面する重圧や社会的偏見に押し潰されることなく、「自身を愛すること」を積極的に見出してくための強い願いが込められている。

 しかし「Love Yourself」を始めて数年が経ち、大人へと成長していく子供と接するなかで、自身が幼少期に抱いていた母に対する孤独や不安といった感情を、自分の子供も経験しているのではないかという疑問を持つようになったと言う。最近のインタビューでは、女性たちに「母との思い出」を聞くことで、母親として抱える一方通行な葛藤や困難だけでなく、子供たちが母に向ける眼差しを、その関係性のなかにもう一度回復することが意図されている。

 本展では、親子の関係性を子供が母を眼差す視点を含めて描くことで、母親という立場を再考するとともに、その関係性に縛られることない解放的な在り方を表現した新作を発表する。

 最近のインタビューをもとに、新作では、「母-子」という連続する関係性や、親子のあいだに呪いのように付きまとう「連鎖」について見つめ直し、そこから母の立場や存在を再考することが目指されている。この連鎖は、目に見えない孤独や愛着の不在、虐待問題から、過剰な愛や期待に縛られ「所有物化」していく子供など、様々なかたちで「母-子」の社会的役割や重圧として植え付けられ、再生産されてしまう可能性を持つ。

 このような決して容易には断ち切れない連鎖を踏まえ、子供が母を眼差す視点を取り入れることは、母という立場にいながら「娘として母を殺す(乗り越える)こと」であり、また、一個人としての関係性を築くきっかけや、自分を解放するためのひとつの過程だと松川は考えている。