EXHIBITIONS

伊東篤宏「Return of pharmacist」

2021.11.26 - 12.25

伊東篤宏 drmd-np-06 & 07 2021

 美術家/オプトロンプレーヤー・伊東篤宏の個展「Return of pharmacist」がSNOW Contemporaryで開催されている。12月25日まで。

 伊東は1965年生まれ。98年に蛍光灯を使用した自作音具「オプトロン」を開発。発光する際に放電されるノイズを増幅・制御することで放出される音と光の激しい明滅を繰り返す伊東のパフォーマンスは、「シンガポール・アーツ・フェスティバル 2010」やナムジュン・パイク・アートセンター(韓国)など世界各地から数多くの招聘を受けてきた。パフォーマーとして高い評価を受けている伊東だが、学生時代は絵画を専攻しており、その後も継続的に平面作品を制作していた。

 描くことが日常である伊東は、脳内に浮かぶ様々なイメージや思考、あるいは出来事を、メモをとるようにスケッチブックに描き続けている。それと同時に、判読できない文字と脈絡ないイメージとを組み合わせ、コピーを繰り返し、画面を切り刻んで再構築するなどの行為を積み重ねることで、解読不可能な情報が掲載されたイメージを大量に創出。伊東はこれらの要素を組み合わせた作品群を、海外滞在中に目にするどこか親和性がありつつも読み込むことができない広告や新聞、チラシ類に囲まれた時に感じる、異邦者のような頼りない心持ちに例えている。

 本展のタイトル「Return of Pharmacist」は、10年前に発売したCD『Midnight Pharmacist』に由来するもの。医療と宗教が分化していない時代に祈祷師/薬剤師など万能の力をもつ人物を示したギリシア語の「pharmakon」を語源とした「pharmacist」をタイトルに据えたアルバムと展覧会は、図らずもそれぞれ、大震災と感染症という未曾有の災禍の年に開催されることとなった。本展は現在の心許ない社会の様子を反映し、そして伊東が描く意味性を宙吊りにした視覚的な作品群は、オプトロンによって生み出される強烈な視覚・聴覚的空間と併存するパラレルワールドであると言えるのかもしれない。