EXHIBITIONS

ジュン・グエン=ハツシバ「While I am Dead - A Prelude to Life(死の間 – 生の気配)」

ジュン・グエン=ハツシバ オクラ畑の菩薩 2021 © Jun Nguyen-Hatsushiba Courtesy of Mizuma Art Gallery

 難⺠をテーマにした「メモリアル・プロジェクト」で知られるアーティスト、ジュン・グエン=ハツシバの個展「While I am Dead - A Prelude to Life(死の間 – 生の気配)」がミヅマアートギャラリーで開催されている。同ギャラリーでの個展は11年ぶり。

 ハツシバは1968年東京都生まれ。⽇本⼈の⺟とベトナム⼈の⽗をもち、世界中の政治的、経済的な難⺠の葛藤や懊悩をテーマにしたシリーズ「メモリアル・プロジェクト」を発表し続け、多くの国際展に参加し、注⽬された。

 本展のタイトルである「While I am Dead - A Prelude to Life(死の間 ‒ ⽣の気配)」は、作家がアートの表舞台から離れ、孤⽴していた7年間を物語っている。

 ハツシバがアート業界から離れた時期は、輝かしいキャリアを築いた17年間のベトナム⽣活を終え、アメリカに移住する決断をしたタイミングと同じだった。ヒューストンに拠点を移したいま、「移⺠として、アメリカ⼈の親として、まるで亡き⽗親の⽣活を体現しているかのようだ。それはまるで、⻯宮城というベトナムから戻ると、現実では⻑い時間が経っていたという浦島太郎のような感覚に似ている」と作家は語る。

 本展のメイン作品《While I am Dead - A Prelude to Life》は、200枚以上のモノクロ写真がギャラリーの壁⼀⾯に広がるインスタレーションだ。⾃⾝の住むヒューストンでの⽇常⾵景、⾃宅内でのパーソナルな⽇々の考察、パンデミック前の東京の旅先、また劇場の舞台カメラマンやスポーツカメラマンとして撮影した写真が⼀堂に会す。

 そして本展を訪れた鑑賞者はその写真群から1枚選び、⾃分の⽇常の写真と「交換」をすることができる(会場内にプリンターが設置され、スマートフォンからのA4サイズまでの印刷も可能)。参加者はハツシバの作品を持ち帰って、参加者の写真は作品の⼀部としてそのまま会場に展⽰される。

「写真を撮ることは、⼈⽣のセラピーである」とハツシバは⾔う。写真を介した対話は、それぞれが置かれた状況の慰めや救いになるだろう。また本展では作家初の写真集から厳選された写真も展⽰。ハツシバが「死の間」に経験した個⼈的で美しい時間を共有する場となる。

「これらの写真群は、セルフ・ポートレートと捉えることができるだろう。それは冬眠のひと時であり、光と闇とを⽬撃しながら眠っている状態であり、アーティストとしての⽣が消えゆく瞬間である。カルマが私を次の場所へと導く時、私は⽣の気配の微かな痕跡を残して、形のない存在であり続けようとしている(ジュン・グエン=ハツシバ)」。