EXHIBITIONS

山谷佑介「KAIKOO」

山谷佑介「KAIKOO」展示風景より

山谷佑介「KAIKOO」展示風景より

山谷佑介「KAIKOO」展示風景より

山谷佑介「KAIKOO」展示風景より

山谷佑介「KAIKOO」展示風景より

 ユカ・ツルノ・ギャラリーは、写真家・山谷佑介の個展「KAIKOO」を開催する。11月13日まで。

 山谷は1985年新潟県生まれ。立正大学文学部哲学科卒業後、外苑スタジオに勤務。その後、移住した長崎で出会った東松照明や無名の写真家との交流を通して写真を学んだ山谷は、メディア装置としての写真に様々な角度からアプローチしながら、カメラのシャッターによって切り取られる現代社会と個人の狭間に横たわる溝や欲望、熱量を意識させるような作品を発表してきた。

 前作「Doors」においては、写真作品をただ発表するのではなく、特殊カメラによって自身のドラム演奏を撮影すると同時にその場で印刷されるポートレイト写真で空間を埋め尽くすことで、イメージを生産する一連の流れをパフォーマンス化し、撮影下の無意識やまなざしの複雑さを浮かび上がらせた。こうした山谷の写真表現のパフォーマティブな展開は、現実を実直に写し出すメディアである写真への尽きない興味と挑戦であり、同時に、撮影者の意図によって出来事や撮影対象がイメージの中で固定化されてしまう一方的な関係への違和感とつながっている。

 本展では、横須賀の古民家の解体・改築作業を通して掘り起こされた土地や建物の歴史、そこで暮らしていた人々の痕跡、そして土やコンクリートといった物質に出会い対峙することで生まれた、土壁の立体作品や作業中に撮影された写真作品を発表する。

 現実世界と対峙する写真への関心を深化させている山谷は、コロナ禍で社会が変動するなか、横須賀の築82年の三棟平屋の古民家を自宅件アトリエに改築するプロジェクトを始めた。そこで家族、友人・知人を巻き込みながら、自身もその作業に一から加わり、土やコンクリートといったモノに直接的なかたちでふれたり、横須賀の土地や建物が持つ歴史やそこに暮らしていた人々の痕跡を掘り起こしたりする過程に、自身が考えてきた写真表現との類似性を見つけたと言う。

 かつて古民家は、陸軍日本兵の宿舎だったという近代史の一旦を担った土地であるいっぽうで、「竣工から80年の間に繰り返されたリフォームで埋もれてきた歴史が顕にされ、特筆すべき歴史的価値のない、ありふれた昔のものたちに今一度光が当たる。受け継がれてきた歴史や伝統とは程遠い、どこにでもあるそれぞれの家の話だ」と語る山谷。現代社会に生きる私たちの足下に埋もれた些細でありふれた存在や歴史といったものを掘り起こし、ふれ合い、そして作業や記録を通して新たな関係性を結ぼうと試みている。

 本展は山谷のプロジェクトを紹介し、現代社会という同時代的なまなざしだけでなく、自らの生活の場所として目の前にある現実がいかに縦軸的に展開する時空間の交流として現れているのか、物質や時間を伴う関係性のなかで成り立つ写真のあり方を探る。