EXHIBITIONS

鈴木のぞみ「The Rings of Saturn / Mirror with a Memory」

2021.08.29 - 10.17

鈴木のぞみ The Rings of Saturn:舷窓-アイリッシュ海 2020 Photo by Masatoshi Mori

 アーティスト・鈴木のぞみの個展「The Rings of Saturn / Mirror with a Memory」がrin art associationで開催。本展は、鈴木が2019年から約1年間のイギリス滞在のなかで出会った様々な事物について思索を重ね、かつての人々の営みへと思いを馳せることで制作されたシリーズを中心に、2フロアで構成される。

 鈴木は1983年埼玉県生まれ。2015年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修士課程修了。平成30年度ポーラ美術振興財団在外研修員としてイギリスにて研修し、現在は東京藝術大学大学院博士後期課程に在学中。「VOCA展2016」VOCA奨励賞、「アートアワードトーキョー丸の内2015」フランス大使館賞受賞。作品は東京都写真美術館やアーツ前橋などに所蔵されている。

 本展で公開される「The Rings of Saturn」は、鈴木が、写真の黎明期とともに発展したヴィクトリア朝以降のイギリスの土着的な遺物の来歴を調べ、望遠鏡や虫眼鏡などを通して、かつての人々によって眺められていたであろう光景を定着させたシリーズ。タイトル「The Rings of Saturn」は、晩年を東イングランドで過ごしたドイツの作家W・G・ゼーバルトが1995年に書いた書物から引用されている。

 同名シリーズでは、無数の小さな粒子が集まることでかたちづくられる土星の環のように、断片のようなイメージあるいはテキストが散りばめられており、時代の目撃者であるそれぞれの事物が孕む小さな物語が私たちのまなざしと交叉し、新しい物語が紡がれる。

 もうひとつの展示作品「Mirror with a Memory」は、19世紀に発明されたダゲレオタイプが「記憶を持った鏡」と呼ばれていたという言説から着想を得た作品。役目を終えた鏡自体を支持体とし、鏡が人知れず映し続けていた室内風景や持ち主の肖像、あるいはその人物の不在が焼きつけられている。

 本展では2つのシリーズを通して、事物に潜像のように宿る記憶を写真で顕在化しようとする、鈴木の試みを見ることができる。