EXHIBITIONS

大岩雄典「margin reception」

+ART GALLERY
2021.06.01 - 06.30

大岩雄典「margin reception」インスタレーション・ビュー 撮影=鐘ヶ江歓一

大岩雄典「margin reception」ロゴ

 大岩雄典の個展「margin reception」が+ART GALLERY(渋谷スクランブルスクエア14階)で開催される。本展企画協力はTALION GALLERY。

 大岩は1993年生まれ。現在、東京藝術大学大学院映像研究科博士後期課程に在籍。「空間と言語」について美的・政治的・哲学的に検討する作品を多く発表し、また第16回芸術評論募集への入選(2019)以降は、美術批評や文芸批評などを商業誌やウェブ媒体に寄稿している。

 2020年の個展「バカンス」(TOKAS本郷)では、クルーズ船を模した映像インスタレーションで、コロナ禍における生の閉塞と雑音を、漫才を用いてユーモラスに扱った。同年に企画した電話で聴く展示「Emergency Call」では、非常事態宣言の発出下において、個々人が自宅で電話を聴きながら、その時間・空間に拘束される状況をつく出した。

 直近の個展「無闇|Blind」(TALION GALLERY、東京、2021)では、サミュエル・ベケットの戯曲や怪談を変奏しながら、観客が「無闇に=盲目に」動き回らざるをえない真暗闇のインスタレーションを発表。大岩は、インスタレーションという芸術形式を問い、様々に押し広げることで、現代の私たちが生きている知覚・メディア・政治の空間を鋭くとらえる作品を、時に俳優・音楽家などと協働しながら、継続的に制作している。

 漫才、心霊映像、歌詞、怪談と、ユニークなメディウムを用いて空間の再編に取り組んできた大岩が今回扱うのは「マージン」だ。渋谷スクランブルスクエアから+ART GALLERYへ、さらにTALION GALLERYへと又貸しされている場所を、大岩は壁面だけTALION GALLERYへと「再リース(貸与)」し、今回のインスタレーション内でTALION GALLERYの企画するポスター展「9 Posters(repost)」(6月1日〜30日)が入れ子開催される状況をつくる。

 この貸与によって、「9 Posters(repost)」の売上から、マージンとして「1パーセント」分が大岩に納められることになる。そして会場ではこのマージン割合と同じ、果汁1パーセントのオレンジ味飲料がコースターとともに販売される。鑑賞者はこれを飲み、マージン分のオレンジの酸味を舌で楽しみながら、ポスター展を鑑賞することができる。

 1970年代のマイケル・アッシャーのプロジェクトから着想を得た本展。「margin」には、マージン・利ざや、余白、周縁という意味が、「reception」には、受領、感受、受け入れ、受付、おもてなしという意味が多重に読み取れる。大岩がタイトルに冠した「margin reception」は「マージンの受領=感受」でありながら、作品や美術という文化の「周縁部をいかに受け入れる/感受するのか」という、制度的、そして美術のインサイダーにとっても政治的な空間への問いをも、オレンジの軽やかな酸味とともに示している。