EXHIBITIONS

上田暁子「A Walk of Broken Theatre」

上田暁子 DÉJÀ-MAIS-VU(A Walk of Broken Theatre) 2020

 ベルギーを拠点に活動するアーティスト・上田暁子の個展「A Walk of Broken Theatre」がユカ・ツルノ・ギャラリーで開催される。

 上田は1983年京都府生まれ。現在ブリュッセル在住。2006年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業後、20年にブリュッセル王立芸術大学絵画コース修士課程を修了した。刻一刻と変わり続ける、流動的な出来事の成り行きを絵画空間として構成することに関心を寄せてきた上田は、近年、自身の制作過程を見返し分析することで、新たな制作方法とイメージ形成に挑戦している。

 最新シリーズ「DÉJÀ-MAIS-VU」では、絵画上に最初に置かれた筆跡をなぞるために、リネン地キャンバスの灰色に限りなく近い色を使ってイメージが重ねられている。上田の以前の色鮮やかな作品群と比べると、「DÉJÀ-MAIS-VU」に描かれるイメージは抽象度が高まり、制作上の過程一つひとつが織りなす空間により注意が向けられている。
 
 作品タイトルの「DÉJÀ-MAIS-VU」は、画家自身のイメージ形成の過程における視覚的な感覚を、フランス語の「déjà-vu(既視感)」と「jamais vu(未視感)」を組み合わせた造語であり、絵画空間における筆跡やイメージがすでにそこにある見慣れたものとして立ち現われると同時に、どこか新鮮で新しいイメージが紡ぎ出されていくような両義的な意味を持つ。

 それは偶発的に置かれた筆致を、絵画上の層として重ねていく上田にとっては必然的な反芻を通して、偶発的に立ち現われる像へと導く方法論。このような制作方法を上田は、その過程で展開される時間や空間、そしてそこで発生した出来事を絵画上で視覚化する実践として考えている。

 本展では「DÉJÀ-MAIS-VU」シリーズのうち、過去の作品にも登場する「劇場」に関連したモチーフを描いた新作を発表。制作過程そのものが絵画空間のイメージ形成に影響を与えながら、複数の時間や影響関係を内包した作品となる。