EXHIBITIONS

久松知子「300円絵画」

2021.04.01 - 04.25

久松知子「300円絵画」より

 NADiff Window Galleryでは、画家・久松知子による展示「300円絵画」を開催。会期は4月1日~25日。

 久松は1991年三重県生まれ。2019年東北芸術工科大学博士課程中途退学。現在は埼玉県在住。日本近代美術史をはじめとした歴史上の人物や、日本のローカルな文化などを題材にした絵画を主に描く。第7回絹谷幸二賞奨励賞、第18回岡本太郎現代芸術賞岡本敏子賞受賞。これまで、トライギャラリーおちゃのみず(東京、2019)、日本橋三越本店(東京、2019)、大原美術館(岡山、2018)などで個展を開催し、国内各地でグループ展に多数参加してきた。

 久松は、2020年より「300円絵画」プロジェクトを始め、新たな展開を見せている。「300円絵画」とは、名前の通りいずれも1枚300円の絵画を指し、様々な質感のB5サイズの紙にアクリル絵具や切り絵、スプレーなどを用いて、パターンや抽象、動物や縁起物などを自由に描いている。

 久松が取り組むこのプロジェクトは、これまで福島県喜多方市の衣料品店に併設された「ギャラリーつじるし」、埼玉県戸田市の集合住宅「はねとくも」、期間限定のECサイトといった、アートギャラリーからは少し離れた一般市民生活に近い環境での展示販売を試みてきた。これまでの発表では会場の近隣に住む小学生や主婦などが来場し作品を購入。「300円絵画」はアートを買うことの敷居を限界まで低くし、気軽に飾って親しめる作品を実現することをコンセプトとしている。

 従来の表現にとらわれず、アートのあり方を思考しながら挑戦し発表を続ける久松。NADiff a/p/a/r/tでのフェアに寄せて、次のようにコメントしている。

「『たかが300円、されど300円』の絵画をたくさんご用意しました。ご購入される方には、ご自身が手元に置いておきたいと思う作品を楽しんで見つけ出して頂けたら本望です。

この作品が生まれたきっかけは、昨年に堀尾貞治さんの色紙をとあるギャラリーで3000円で購入し、家に飾ったときにあります。個人的な体験でしたが、1枚の色紙を自宅に迎えた時、なにか豊かなものがもたらされたのを感じたのです。アートを買う、所有して飾るということについて考えてみると、庶民には敷居の高いものなのではないかと思うときがあります。暮らしの中に芸術品を飾るという意識は、時として、文化的・経済的に限られた人のものであるような気がします。それは、高額であったり希少であることが価値を高める一面がアートにはあることや、作品を見定める審美眼を教養として取り扱う場面などで感じることです。『300円絵画』は、これまで衣料品店や住宅街の一角など、アートが展示され語られる場としては周縁的な場所での実施を試みてきました。作品を持つことで『豊かさがもたらされる』という感覚の間口を広げることは、価格を限界まで下げた作品を、アートは敷居が高いと感じる人にも目に入り手が届く場所で流通させることで実現できるという考えの作品だからです。

そして、今回の恵比寿・NADiff a/p/a/r/tでのフェアは、このプロジェクトにとって、今までとは違う条件での開催になります。それは、ここが都市の中心部に位置するアートの専門店であり、アートを享受する『豊かさ』は相対的には実現されている場所に私には思えるからです。作家としてはここでは、絵画を300円で流通させることの危うさも引き受けながら、作品とは、どこで、どんな風に売買されるものなのかを、もう一段批評的に問うてみることを楽しみとしています(2021年3月28日、久松知子)」。