EXHIBITIONS

キリコ展「school goods」

左から、キリコ《印象化石(うわばき入れ 1980)》 《印象化石(コップケース 2000)》《印象化石(おけいこバッグ 1981)》(いずれも2021)

 キリコは1978年京都生まれ、神戸を拠点に活動する写真家・美術家。第32回キヤノン写真新世紀佳作(荒木経惟選、2009)、ミオ写真奨励賞2010入選。2015年にLondon International Creative Competition(LICC)佳作などを受賞。写真や映像で自身の親密な人間関係を記録することで、自らの個人的体験を通した「女性像」を描出してきた。

 近年、出産を経験し母親になったことで、自身を取り巻く環境が大きく変わった作家は、本展「school goods」で、日本の伝統となっている手づくりの学校用品に着目した同名の新作を発表。石膏や刺繍、コラージュ作品によって、社会に根づいた「母親」像や「母性」の意味を改めてとらえ直す。

「school goods」の制作のきっかけとなったのは、作家個人が「母」として経験したある出来事。子供が幼稚園に入園できる年齢になると、保護者たちには、幼稚園用の小物を用意するようにと、細かい指示を出される。その小物はすべて、大きさや細部に指定があるため「手づくり」でなくてはならない。ミシンすら持っていなかった作家にとって、「手づくり」が母親の当然の義務だとされることは、どこか居心地の悪いものだったという。

 母親たちがつくり続け、時代を超えて受け継がれてきた手づくりバッグのかたちは、50年以上前からほとんど変わっていない。キリコはこれらに目を向け、伝統的な手づくりの「school goods」を型取り、並べ、作品とすることで、通念化している「母」の観念を可視化し、新たに文脈化しようと試みる。

 一連の作品に見て取れるのは、日本の現代社会において漠然と期待されてきた「母親」の役割への対峙にとどまらない。そこには、自ら経験する母たちの「愛」を、集合的かつ普遍的な「母のかたち」としてもう一度拾い上げようとする、作家の内的な眼差しも感じ取られる。