EXHIBITIONS

中村佑子、松川朋奈「My River runs to thee それでも私の川は、あなたへと流れている」

松川朋奈 Love Yourself 3 2018

中村佑子 いのちがうまれゆくおと 2021

 中村佑子と松川朋奈の2人展「My River runs to thee それでも私の川は、あなたへと流れている」がユカ・ツルノ・ギャラリーで開催される。

 2人の作家はともに近年、母になった体験のなかで生まれた気づきや感性をインタビューや取材を通して探求し、中村は文章と映像で、松川は絵画として発表してきた。本展では、かたちを変えながらも脈々と受け継がれていく「母」を出発点に、共鳴し合う2人の作品を展示する。

 中村は1977年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科哲学専攻卒業。哲学書房にて編集者を経て、テレビマンユニオンに参加。映画作品に『はじまりの記憶 杉本博司』『あえかなる部屋 内藤礼と、光たち』(HOTDOCS正式招待作品)など、ドキュメンタリーを多く手がけてきた。

 文芸誌『すばる』での長期連載を経て、2020年12月に初の単著『マザリング 現代の母なる場所』(集英社)を出版。自らの体験と多くの女性への取材を手がかりに、また自身が持つ記憶や母との関係を重ね合わせながら、「母」に代わる言葉として「マザリング」を使う。それは「自分や他者の痛みに敏感になり、いつ終わるともしれない計画できない時間を待ちながら過ごすという、文明が退化させてしまった他者に寄り添う感覚を取り戻すプロセス」(同書10頁より)であり、生の起源が稀薄化された現代社会に抗うような身体感覚や時間感覚を持つ「母なる場所」の可能性へと開かれている。
 
 本展では、「病の親を持つ子どもたち」をテーマとした自身初のAR映像作品《サスペンデッド》(「シアターコモンズ ’21」出品作)の一部映像と、「マザリング」を探求するにあたって、その内面的な心象風景として立ち現れるような写真作品を発表する。

 松川は1987年愛知県生まれ。2011年多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。クロースアップした写実的な絵画で人間の内面へとアプローチする松川は、中村と同様に、同世代や自身と同じ状況を持つ女性へのインタビューを重ねてきた。

 そのなかで松川は、印象に残ったフレーズやシーンを私的な事象を想起させる細部として、ハイライトを当てながら再構成し、日常生活に残された行為の痕跡や仕草に表れる人間の内面や葛藤を表現。近年は、自身が年齢を重ねるにつれて取材対象であった同世代の「若い女性」たちが「妻」や「母」へと変化したり、「老い」を身近に感じるようになったり、女性たちが抱える不安や悲しみ、疲れ、弱さといった多様で複雑な内面の一つひとつを肯定しながら、母親と子供の主題としている。

 本展では中村の著書の表紙に使われた作品《Love Yourself 3》(2018)とともに、「マザリング」や中村の映像作品からイメージの着想を得て制作された新作を発表する。

 なお会期中の3月27日には、2人を迎えたトークイベントの開催を予定している。