EXHIBITIONS

The Rite of Spring 2021

笠井麻衣子 百合の花の意味 2020

 ユカ・ツルノ・ギャラリーがグループ展「The Rite of Spring 2021」を開催する。参加作家は、ティム・バーバー、狩野哲郎、笠井麻衣子、流麻二果、新田友美、ラウル・ワルヒ。6人の作家の繊細な取り組みを通して、創造的な力が織りなす春の息吹を探求する。

 大胆な筆跡とキャンバスの白地を活かして、宙に浮くかのように振る舞う少女たちを描く笠井麻衣子。受胎告知を題材とした作品では、少女と天使、白鳩、白百合の花をモチーフに、物語に独自の視点や解釈を取り入れながら新たな物語を紡ぐことと絵画の関係性の本質に迫る。

 新田友美は、生命の存在論的な営みとそれを取り巻く無限の世界や曖昧な認識を表現。視覚的効果としての絵画ではなく、身体的経験として広がっていく感性的で触覚的な絵画のあり方を探求し、近年は身近な植物もモチーフとして扱う。冬の終わりに咲き始める水仙の花は、大地が再び生命を宿す回復の兆しを感じさせる。

 流麻二果の初期の絵画は、日常のなかですれ違い、直接的にかかわることがない他人の人生や暮らしへの想像を重ねるなかで生み出されたイメージが、何層もの色彩と形態で表現されている。絵画や日本文化に表れる色彩に独自の視点から取り組んでいる作家にとって、些細な日常に潜むまだ見えていない振動を色や光を通して共鳴させるような試みとも言える。

 ドイツ・フランクフルト生まれのラウル・ワルヒは、公共空間に引かれたあらゆる境界線を明るみにし、その空間がもつ力学や文脈を一時的に書き換えるような取り組みを続けてきた。様々な境界線を越えるなかで出会った出来事や経験から生み出されたパターンをプリントした布地を用い、境界を揺るがす旗や垂れ幕、多様な文化のパッチワークとしてのモビール作品を制作している。

 身の回りの日用品や道具を用いて、人間によって意味づけされてきた記号や価値、役割を解体する狩野哲郎。人間と異なる知覚をもつ鳥や植物を内包することによって、自身の意図を超えて推移する新たな環境や風景をつくり出してきた。また断片的な部分がいかに全体へとつながっているのかを思考し、一時的なインスタレーションでありながらもひとつの全体として存在する彫刻作品を追求している。

 写真家であるとともに、フォトエディターやキュレーターとして知られるティム・バーバー。その写真作品は身近な風景や無造作な場面を写しながら、どこか謎めいた物語を見る者に連想させる。そこには、日常の瞬間をどのように生きるかを複数の角度から眺めることへの示唆が織り交ぜられている。