EXHIBITIONS

豊嶋康子「前提としている領域とその領域外について」

2020.10.16 - 11.15

豊嶋康子 地動説_2020_1 2020

 人間の思考の「型」を見出すことをテーマに、身の回りにあるものを素材とした作品を手がけてきたアーティストの豊嶋康子が、Maki Fine Artsでは約3年ぶりとなる個展を開催する。

 豊嶋は1967年埼玉県生まれ。93年東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修士課程修了。日常社会の制度や仕組みを批評的にとらえ、一貫して人間の思考の「型」を見出すことを主題に作品を制作してきた。

 活動初期の90年代は、マークシート解答用紙の回答部分のみを残し黒塗りにした「マークシート」(1989〜90)や、定規や分度器をオーブントースターで加熱し、捻じ曲げ変形させた「定規」(1996〜99)、また鉛筆の中心部分のみを削り、芯を露出した「鉛筆」(1996〜99)などを発表。ユーモアをつけ加えながら、身近にあるものを本来の役割や意味から巧妙に逸脱させた。

 また、社会経済のシステムに着目した「ミニ投資」「口座開設」「振込み」(いずれも1996〜)では、株券、通帳、取引明細そのものを展示する手法により、行為・手続きを作品化。特定のルールや制度に内在する個の存在を浮かび上がらせた。2010年代に入ると、豊嶋の関心は現実的なプロセスよりも、自律的な形態によるパターン(図像)へと移行。木製パネルの裏面に角材を幾何学的に組み込んだ「パネル」シリーズ(2013〜)では、鑑賞者の意識を表面から裏側へずらし、他方、合板上に複数の矩形を浮き彫りにした「四角形」(2017)では、支持体と図の相対的な関係性を題材としている。

 逆説的なものの見方に基づき、内的な部分とそれ以外の領域の交差により生じる、自身の葛藤や抵抗を体現してきた豊嶋。本展では、新作「地動説_2020」シリーズを中心に発表する。

 円状の木材がダイヤル式に可動するの特徴をもつ同シリーズには、固定化した「かたち」のない無数のパターンが存在。自転・公転の運動の仕組みを参照して仕掛けが施された装置は、暗号的な意味合いを帯びて鑑賞者の思考に迫る。