EXHIBITIONS

加藤翼「Superstring Secrets」

2020.10.01 - 10.31

Courtesy of the artist, MUJIN-TO Production

 人や土地とのつながりを視覚化してきたアーティスト・加藤翼の個展が無人島プロダクションで開催される。

 加藤は1984年埼玉県生まれ、2010年に東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画を修了。人々の自発的な協力によって、ロープで巨大な構造体を動かす「Pull and Raise」シリーズをはじめとする共同実践の作品や、韓国と日本のあいだの無人島を舞台とした作品《言葉が通じない》など、他者との境界線にふれる活動も展開している。

 加藤は2020年2〜5月までの約3ヶ月を大館當代美術館での展覧会への参加のため香港に滞在。世界中に拡大した新型コロナウイルスの影響で、展覧会は開幕延期となり、なかなか帰国もできない状況のなか、加藤は人と極力交わらないプロジェクト「Superstring Secrets」を香港でスタートさせた。

 当時の香港は、中国本土に容疑者の身柄引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案に反対する大規模なデモから1年近く経った頃で、多くの逮捕者が出たほか、新型コロナウイルスを理由とした集会の禁止、そして政権転覆を禁じる「国家安全法」の可決直前の時期でもあった。

 そこで加藤は、香港の街中にある地下歩行者トンネルに投書箱を設置し、「あなたの秘密を告白してください」「あなたが属するグループ、国や街、職場、学校への本音を打ち明けてください」「誰かの秘密を暴露してください」の質問3つを掲示。次に投函された大量の紙をシュレッダーにかけてバラバラにし、細長くなった紙を束ね、太いロープにするというパフォーマンスを行った。そして帰国後、加藤は、今年の開幕が延期となった東京オリンピック・パラリンピック会場近くの各所に投書箱を再び設置し、同じように人々の秘密を集めてロープを編み上げた。

 個の秘密に焦点を当てた「Superstring Secrets」プロジェクトは、各々の秘密によってできてしまった「心理的な距離」、そして2020年の新型コロナウイルスとの闘いのなかでできた物理的な距離「ソーシャルディスタンス」を、個人/公の秘密を「結び、つなぎ合わせ、たばね、編み上げる」プロセスでできたひとつのロープという集合体として提示することで、秘密の歴史や人間関係の分断などの問題を可視化させた。

 無人島プロダクションの展示では、「Superstring Secrets」のシュレッダーロープに加え、パフォーマンスの記録などを映像や写真で展示し、大掛かりなインスタレーションを展開。また会場には投書コーナーを設け、映像を「ソーシャルディスタンス」で鑑賞できるような仕組みもつくる。

「Superstring Secrets」は現在、シンガポール、台湾でも進行中。本展で初披露となる香港と東京の2つから始まり、今後、世界の様々な場所で物語が続いていく。