EXHIBITIONS

彦坂尚嘉「フロア・イベント:反復と変容」

2020.07.25 - 09.12

Hikosaka Naoyoshi, Floor Event No.4 combination with Ceiling Music No.1, 1972, Performance at Hikosaka residence in Tokyo

Hikosaka Naoyoshi, Floor Event No.4 combination with Ceiling Music No.1,1972, Performance at Hikosaka residence in Tokyo

Hikosaka Naoyoshi, Delivery Event + Floor Event No.3,1972, Performance and installation at galerie 16 in Kyoto

Hikosaka Naoyoshi, Delivery Event + Floor Event No.3,1972, Performance and installation at galerie 16 in Kyoto

Hikosaka Naoyoshi, Carpet Music – Milk Crash(Equivalent of Floor Event No.5), 1972, Performance at White Anthology, a group concert at Lunami Gallery in Tokyo

 1970年代以降の日本のコンセプチュアル・アートを主導したアーティストのひとり、彦坂尚嘉の初期の代表的なパフォーマンス作品に焦点を当てた個展が開催されている。

 彦坂は1946年東京都生まれ。67年多摩美術大学油彩科に入学し、69年に掘浩哉らとともに「美術家共闘会議」を結成。ゴム植物などから得られる「ラテックス」を床にまく行為を主題とした「フロア・イベント」を70年より開始する。その後、自室の畳や家具を移送して行う「デリバリー・イベント」や、「シーリング・ミュージック」「カーペット・ミュージック」などほかの要素やイベントと複合。また案内状やインストラクションなどの紙の作品も含めて「フロア・イベント」の変奏を繰り返し、75年のパリ青年ビエンナーレでの展示をシリーズの7番目に、帰国後は日本の税関に畳を没収焼却されるまでをファーストサイクルとして続けられた。

 70年と71年の「フロア・イベント(No.1、No.2)」の後、72年に、彦坂は自宅から畳と家具類を梱包して京都のギャラリー16に運び、「フロアイベントNo.3」を開催。梱包された家具類と4トン半のトラックには赤字で「REVOLUTION」と記し、東京から京都までの500キロを移送した。そして展示に合わせてギャラリーの壁を撤去。ギャラリー空間を自室へと変貌させ、その場で床にラテックスを撒く行為を行い、ラテックスが乾いていく過程をそのまま展示すると、最終的には皮膜となったラテックスを剥がし、ギャラリーを原状復帰して、すべての畳と家財道具を再度梱包して東京に帰ることを試みた。

 美術表現の制度そのものを根元から問い直した彦坂の作品群は、一般に「パフォーマンス」に分類される。しかし当時の彦坂は写真を使った「情報アート」の試みの一環として「フロア・イベント」を繰り返し、写真撮影を作品の不可欠な要素として探求してきた。また、当時の技術的限界のなかで、時間のうちに生起する作家の行為や「ラテックス」の変化を表現しようと、スライド・ショーを制作していた。

 本展では、彦坂が70〜75年に行った「フロア・イベント」シリーズから、3つの作品(No.3〜5)のビンテージ記録写真やスライドショー、またオリジナルの案内状などを展示。ニューヨーク在住の美術史家・富井玲子氏の編纂による「フロア・イベント:ファーストサイクル」のクロニクルも発表する。

 彦坂にとってイベントや写真とは何であったか。インストラクション、プラクティス、情報、パフォーマンス、インスタレーションといった70年代以降のグローバルなコンセプチュアリズムを牽引する事象について、またそのなかにおける「フロア・イベント」の位置づけなど、本展では様々な問いを提起する。