EXHIBITIONS

エリザベス ペイトン「Still life 静/生」

原美術館
2017.01.21 - 05.07

エリザベス・ペイトン Kurt Sleeping 1995 © Elizabeth Peyton, courtesy Sadie Coles HQ, London, Gladstone Gallery, New York

エリザベス・ペイトン Nick(First drawing) 2002 © Elizabeth Peyton, courtesy Sadie Coles HQ, London, Gladstone Gallery, New York

エリザベス・ペイトン Two women(after Courbet) 2016 © Elizabeth Peyton, courtesy Sadie Coles HQ, London, Gladstone Gallery, New York

 1990年代に一大ブームを巻き起こしたオルタナティヴ・ロックバンド「ニルヴァーナ」のフロントマン、カート・コバーンが眠る姿を、コバーンが逝去した翌年の1995年に描いた《Kurt Sleeping》。あるいは、建築と音楽に破滅的浪費を繰り返し「狂王」の異名をとった19世紀バイエルン王国の王、ルートヴィヒ2世を世紀末の放蕩の象徴として描いた《Ludwig II with Josef Kainz》。エリザベス・ペイトンはニューヨークを拠点に、90年代初頭より自身と親密な間柄にある人々や愛犬、歴史上の人物や美術家、小説家、音楽家、役者、カルチャーアイコンといった幅広い対象を絵画やドローイング、版画などを通して描いてきた。

 ペイトンは、ギュスターヴ・クールベからアンディ・ウォーホルまで、様々な肖像画を研究し、自由で現代的な表現方法を追求。写真や実際の人物を目の前に、日常と非日常を往来するような作品に仕上げていく。《Ludwig II with Josef Kainz》に見られるように、初期にはや文学や歴史上の人物、とりわけ様々な伝説を残した人物を描写。肖像画の役割や本質に迫った。

 ペイトンの作品の大きな特徴のひとつに、異なる時代を生きる人物が同様の距離感で描写されることが挙げられる。《Kurt Sleeping》は、人物画でありながら、コバーンの生死をめぐる聖人画の側面を備える。また《Prince Eagle(Foutainebleau)》では、フランスにある城の水路脇を歩く友人を、壮麗な景観を背景に内省的に描写。現代の事象に歴史的な文脈を含める、あるいは背景にすることで、独自の距離感は生み出される。近年では街の風景や静物、オペラからもインスピレーションを得て、肖像画の概念を問い続けている。

 これまで日本で紹介される機会の少なかったペイトンの、日本の美術館では初の個展となる本展。作家自選の約40点によってペイトンの活動を一望しながら、肖像画についての思考を巡らせる場となるだろう。