EXHIBITIONS

南条嘉毅:Roots of travel / 一雫の海(Daikanyama)

南条嘉毅 cluster035.isemoude 2019

 南条嘉毅(なんじょう・よしたか)は1977年香川県生まれ。風景を主題とした平面作品を軸に制作を行い、対象とする場所の現在の姿のみでなく、歴史の面からも考察したうえで、複層的な画面として描き出している。制作において訪れた現場の土を用いることで、ポータブルな絵画に場所が持っていた力を付与する試みも行っており、その根底には絵画の場所性に対する施行を垣間見ることができる。

 近年の表現活動は平面にとどまることなく新たな領域に広がっている。2016年のアートフロントでの個展以降は、土、 砂を主要な材料としながら、音と光を加えノスタルジックな空間を通した劇場型のインスタレーション作品として新たな表現方法を確立。17年の奥能登国際芸術祭にも選出され、地元の象徴的な材料である珪藻土(けいそうど)を用いて手がけた、忘れ去られた土地の歴史を見つめ直すインスタレーション作品が注目を集めた。

 本展では異なる2つのインスタレーション作品を発表する。

 1つ目のインスタレーションは、お伊勢参り(おかげ参り)や熊野詣を通して日本人の旅とそれにまつわる文化のルーツを探ったもの。その土地、場所にちなんだ作品をつくり続ける南条の興味は、自らが赴いた場所の土や鉱物に向けられ、それを作品の一部として取り込んでいるが、今回は収集したものの配置に加え、本来の画家としての表現も足されて一層豊かなものとなっている。

 もういっぽうのインスタレーションでは、南条が出品している瀬戸内国際芸術祭2019(春季~5月26日)にあわせて、瀬戸内での展示をギャラリー用に再編成して展開。作家の故郷・坂出市のかつての産業を掘り起こし、現在では忘れられた塩田産業と人々の営み、また塩の結晶を通して時間の蓄積を作品化する。

 本展では、瀬戸内国際芸術祭の舞台のひとつである沙弥島でその土地を通して見えてくる場所性の強いインスタレーションと、いっぽうで遠く離れた代官山で再編集され、新たな表現として存在する作品の2つを同時期に見ることができる。