EXHIBITIONS

ブノワ・ブロワザ展「故郷 Furusato」

ブノワ・ブロワザ Bonneville 2007 パリ市立近代美術館蔵

ブノワ・ブロワザ Furusato 2018

 イメージ生成のメカニズムをテーマにした、ドローイング、インスタレーション、写真、デジタルアニメーションなど多岐に渡る表現を展開し、美術家クリスチャン・ボルタンスキーをはじめ、国内外から注目を集めるフランスの新進作家ブノワ・ブロワザ。本展では、代表作《Bonneville》(2007、パリ市立近代美術館蔵)を中心に、日本初公開となる2つの新作《Recollection》、《Furusato》を通じて、作家のこれまでと現在が紹介される。

 《Bonneville》はブロワザの故郷の名を冠した映像作品。おぼろげな町並みの記憶だけ を頼りに描かれた約1000枚のドローイングをアニメーション化した。ブロワザが肌で受 け止めた感覚と体内に蓄積した時間の断片によって表された記憶のイメージの世界は、次第に見る者の記憶と交錯しはじめ、個別のストーリーを喚起する。ボルタンスキーの目に留まった本作は、彼が発案した展覧会「La Chaine -日仏現代美術交流展」(横浜・BankART1929、2007)に出品されるなど、ブロワザの代表作のひとつとして日本でも紹介されている。

 新作のひとつ《Recollection》は、ブロワザの「記憶(力)」だけを頼りに、誰もが知るダビデ像やミロのヴィーナスといった美術品をミニチュアの彫刻として制作し、その拡大写真とともに構成される作品。彫刻は、イメージの儚さを象徴するかのように小さいながらも、その姿は作家のフィルターを通した像であるはずが、誰もが既存のダビデ像やヴィーナスを眼前にするかのような感覚を抱かせるユニークなもの。その像を写真に収め、曖昧であったはずのイメージを拡大し、定着させることで、ブロワザは個人の記憶と集団の記憶の関係に揺さぶりをかける。

 そして、最新作《Furusato》では、《Bonneville》で登場した家や車などのモチーフがゴム判となり、観客はこれらを用いて自分自身が思い描く故郷の風景を自由に再構成することが可能になっている。個人的記憶の構成要素は、スタンプという形をとることで簡略化され、普遍的なシンボルに変換される。《Bonneville》から発展し、個々人の主体的参加という要素を強調した本作は、作家個人の記憶が集団の共有物となり、新たな「ふるさと」が生まれるプロセスを提示する。