Glenn Ligon

　OSCAAR MOULIGNEで「グレン・ライゴン」が開催されている。

　グレン・ライゴンは1960年生まれ、ニューヨークを拠点とする米国のアーティスト。作品は、様々な「抽象」の概念や育語の読み取り可能性を掘り下げながら、ペインティング、ネオン、版画、写真、インスタレーション、スカルプチャー、ヴィデオなと多様な媒体を駆使した作品を制作している。テクストや既成のイメージを、米国の豚史、文学、文化、社会構成概念といったコンテイストに取り込む。

　ジェイムズ・ボールドウィン、ゾーラ・ニール・ハーストン、ガートルード・スタインといった書き手による文学作品や、スタンドアップコメティ、子供用の塗り絵、奴隷制をめぐる諸々のサンティジなど、作品のソースは様々だ。1990年代以降、ライゴンの作品は抽象の限界に挑み、個人的そして集合的なナラティヅを通じて人種やセクシュアリティ、アイデンティティなどの問いを視覚的に批判・検討するものとして評価を確立している。

　日本での初個展から10年の節目となる今年、本展でグレンは《Static》と題された油彩作品と楮（こうぞ）紙を用いた無題のドローイング・シリーズの２種類の新作を発表。これらは、古典的な芸術や普、近代絵画、コンセプチュアル・アートといった伝統に立脚し、こするという技法を使って制作され、異なる様々な形式や素材を通じて独特の物質性を明確に打ち出しつつ、文字の読み取り可能性、形式、素材、さらには抽象性などの点で多様なひろかりをみせる。

　どちらのシリーズも、アフリカ系アメリカ人作家ジェイムズ・ボールドウィンが、ほぼ誰も黒人を見たことのないスイスのある小さな村で過ごした経験を綴った試論「Stranger in the Village」（1953年）を象徴的に使いながら、今日の米国で、人種間の関係やナショナル・アイデンティティをめぐる歴史的、政治的、社会的問題の数々を暗示している。