EXHIBITIONS

香月恵介「ANGELS」

2023.11.02 - 11.26

香月恵介 Angels #1 2023

 EUKARYOTEで、香月恵介による個展「ANGELS」が開催されている。

 香月恵介は、モニターに映る図像の発光をRGBに分解し、絵具によって物理的に置き換える「Pixel Painting」を始め、一昨年の個展では混ざり合う色彩のメディウム=色材的灰色と、ランダム生成された仮想物としての光学的灰色の数値をキャンバス上に混成させた「Noumena」を発表するなど、視覚と現代のメディウムとの関係性を起点に、おもにペインティング技法を用いて追求してきた。

 本展では新たな境地として、アンブロタイプ=古典技法の写真による新作群を発表する。アンブロタイプとは19世紀半ばに確立された写真技法で、薬品を塗布してつくられたガラス板上の感光膜に露光し影を記録させ、背後に黒い背景を置くなどして板上のボジティブ像を視覚化させる。黎明期の写真技術では、その制作工程と制御の複雑さから入り込む誤差に加え、当時のスピリチュアリズムの影響から超自然的なイメージが見出され、更に意図的に心霊的イメージを映し出すことが試みられてきた背景がある。

 香月は、近年急速に一般化したAI技術による画像生成を試みて以降、実在するイメージを引用しながらもプロンプトの解釈によって人間の想像力を超越したかのように現れる生成パターンと、死後の世界や人の目でとらえられないものを映し出そうとした心霊写真の類似性を手がかりに、それらが持つ「いまあるもの」と「過去存在したもの」をひとつにつなぎとめるように、アンブロタイプとAI画像生成技法をあわせ用いた制作に取り組んでいる。

 香月は、パウル・クレーが描いた《新しい天使》についてヴァルター・ベンヤミンが書き残した言葉を自身の制作に重ねあわせながら、いまこの瞬間にも生み出されている新しい図像もまた、未来において甦らされ、再生産されていくことや、写真が本質的に持つ「存在の証明」の偽装が、創作行為の歴史のなかで繰り返されていることをほのめかしている。そのいっぽうで「私たちは超自然的なものに意味を見出し、異なる世界の可能性について夢想することができる」とも語りかけている。