EXHIBITIONS

RUTH MARBUN 個展「Limited But Expandable」

2023.11.10 - 12.16

ルース・マーバン Meanings don’t get lost. They change. 2018

  MARGINで、ジャカルタ出身のアーティスト、ルース・マーバンによる個展「Limited But Expandable」が開催されている。

 マーバンは1985年インドネシア生まれ。英ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション、シンガポールのラッフルズ・デザイン・インスティテュートでファッション・デザイン専攻を卒業後、ジャカルタを拠点に制作を行っている。人間とその周囲を取り巻く環境の相互関係、適応と生存のための人間の繁栄する能力を探求している。マーバンの作品は、人間の弱さを強さの源として、回復力と変化の能力を強調している。

 マーバンは、伝統的な美や女性的な繊細さ、完璧さを象徴する反復的な刺繍の表現手法を再解釈し、絵画制作における画面づくりを手作業のエネルギーと支持体の反応の相互作用の痕跡としてとらえている。本来であれば修正されるべき不完全さを押し広げることで、自身のエネルギーを媒体の性質に従って作用させ、着想、意図、過ち、達成といった制作過程のすべてを内包したありのままの姿で作品を制作している。こういった創作のなかで獲得した新たな言語と意味は、家族のあり方や社会生活、遺伝環境論争、信頼といった彼女の関心と結びつき、作中に登場する人物のモチーフは、不完全であることを受容し、原初の人間の姿を肯定する新しい物語を伝える一助になっている。

 身体のパーツが解体された人物や不格好な家族の肖像に重点を置いて制作された2018年のアクリル作品は、写実的な描写と荒々しい筆致が混在し、モチーフをコラージュ的に配置したダイナミックな構図が特徴的だ。色彩と明暗のコントラストが強調する複数の表情や眼差しは、不本意に切り取られた日常の瞬間であり、家族の道徳主義的な側面の暗部を覗いたかのような緊張感を生み出す。

 新作の展開では、これまでの多くの美的要素を保持しながらも、構図と色彩が抑えられ、より原始的な性質が示されている。鉛筆と木炭を使用した水彩作品は、余白と水彩の滲みを効果的に活用し、均整を欠いた人物の表情や仕草を描写している。本展のタイトルである「Limited But Expandable(限定的だが拡張性はある)」というメッセージは、絵画の限界と可能性に向き合うマーバンの制作態度であると同時に、現状を真摯に見つめた先にある楽観的な感覚を反映し、理解と成長を可能にする時間への思索を感じさせる。

 日本における初の個展となる本展では、アクリル・水彩の新作ペインティングのほか、「アートジャカルタ2018」で発表されたアクリルキャンバスの大作3点を含めた約20点を展示する。