EXHIBITIONS

KMNR™「紙標」

2023.09.16 - 10.08
 VOILLDで、谷口弦、桜井祐、金田遼平によるアーティスト・コレクティブ、KMNR™(カミナリ)の新作個展「紙標(しるし)」が開催されている。

 谷口は1990年佐賀県に生まれ、江戸時代より300年以上続く和紙工房、名尾手すき和紙の七代目として家業を継ぎ伝統を守りながら、様々な技法や素材を手漉き和紙の技術とかけ合わせ、和紙を用いたプロダクトの開発や先鋭的な作品を制作している。

 桜井は1983年兵庫県に生まれ、現在は福岡を拠点に自身が設立したクリエイティブ・フォース TISSUE Inc.にて編集者としてアートブックの出版や幅広いメディアの企画・編集・ディレクションを行い、並行して九州産業大学芸術学部ソーシャルデザイン学科の准教授を務めている。

 金田は1986年神奈川県に生まれ、独学でデザインを学び渡英。グルーヴィジョンズへの所属を経てデザインスタジオYESを設立し、東京を拠点にグラッフィクデザイナー・アートディレクターとして活動をしており、三者三様に国内各地で多彩なプロジェクトを手がけている。カミナリは2020年に結成され、国内外での展覧会の開催やグループ展への出展、企業への作品提供など、精力的に作品の発表を行っている。

 カミナリは伝統的な手すき和紙の技術を用いて再生された紙「還魂紙」を使って、様々な時代の「物」に宿る魂やストーリーを紙にすき込み、先人達が積み重ねてきた和紙という歴史を現代の観点で解体し、新たな価値を吹き込み再構築した平面、立体作品を制作している。江戸時代以前、反故紙を用いて漉き直された再生紙は、原料の古紙に宿っていた魂や情報が内包されていると考えられていたことから「還魂紙」と呼ばれていた。カミナリは、その還魂紙を活動のコンセプトであると同時に軸となるマテリアルとして用いることで、過去と現在、変化し続ける未来、そして異なる文脈の物事をつなぎ合わせるという役目を持たせている。

 本展では、近年制作している関守石をモチーフとした立体作品「PAUSE」のシリーズに続き、石をモチーフとしたオブジェクトを様々に組み合わせ紐で結び上げた立体作品を発表する。和紙とは人間が人間のためにつくった「記録」や「記憶」を残すための媒体でありながら、近年のデジタルやインターネットの普及によりそのあり方はかたちを変えてきており、紙を使うこと自体がまるで儀式のような特別な意味を持つようになってきているとカミナリは言う。そして石とは、物質が長い年月をかけ積み重なりできた「時間」や「歴史」の象徴である。

 そのふたつを組み合わせることで、生きてきた証や過去の思い出といった、かたちにしがたいものたちを可視化し、そこに置くことで気付き、立ち返れるものとして一連の作品が制作された。印象的な結び目は、日本古来の結びなどから着想を得て、しめ縄や結界、魔除けのような想いを込めながら一つひとつ結び上げられている。作品と行動を介して、歴史とはなにか、人の記憶とはなんなのかという根本的な疑問を投げかけながら、新鮮な角度から思考と実践を重ね練り上げた、およそ20点に及ぶ作品群を鑑賞できる展覧会となっている。