EXHIBITIONS

元田久治「CARS」

元田久治 CARS: White Line 2022 © Hisaharu Motoda

元田久治 CARS: Manhole 2022 © Hisaharu Motoda

元田久治 CARS: Pedestrian Crossing 2022 © Hisaharu Motoda

 元田久治の個展「CARS」が開催される。アートフロントギャラリーでは、2017年以来の展示となる。

 元田は1973年生まれ、熊本県出身。99年九州産業大学芸術学部美術学科絵画専攻卒業。大学在学中に版画技法のひとつであるリトグラフと出会い、その後、東京藝術大学大学院での版画専攻とオーストラリアとアメリカでの滞在制作を経て、リトグラフ版画家としてのキャリアを積んできた。

 元田作品を特徴づける点として、東京タワーや渋谷のスクランブル交差点など、国内外の誰もが知っているランドマークを廃墟と化した、精密な風景画が挙げられる。2004年頃から描き始めた一連の廃墟の風景は、人工的な構造物が風化し自然に帰る過程への興味や、地元から上京してきた際に感じた都市風景に対する違和感に通底しているという。

 本展で元田は、これまでの作風からの新展開を発表する。本展タイトル「CARS」と銘打たれた一連の新作では、現実の世界の道路をそのまま切り取って持ってきたような実物大のアスファルトと白線を背景に、実物大の、古びて劣化したミニカーのリトグラフが無数にコラージュされている。

 これまで元田がつくってきた廃墟風景は、既存の建物が空想上で廃墟化され、精密なタッチがリアリティを持って鑑賞者に迫ってくるのに対し、新作の「CARS」シリーズでは、写実的な描写は健在なものの、背景の道路とコラージュされるミニカーがともに実物大で描かれているために、その前景にあるミニカーのスケールのミスマッチを印象的に感じさせる。

 ドローンの偵察映像を彷彿とさせる、上空から真下に見下ろすような視点で展開される無数のミニカーは、乾ききった路面上で方向をそろえ、またある時は無秩序に散らばっている。その一貫性のなさは、近年のコロナ禍や開戦まもないウクライナといった、解決の糸口の見えない情勢に迷い、不確かな情報に右往左往する人々を映しているようでもある。リアリティあふれる研ぎ澄まされた描写感覚を用い、今日の社会動向の核心を俯瞰して表現する元田の新境地に注目してほしい。