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百貨店の美術館

Museum in Department Store

 百貨店が店内で行う展覧会のこと。大別すると、店内に専用施設を建設して本格的な美術館を志向するタイプと、特設会場で催事の一部として展覧会を開催するタイプの2つに分かれる。多くの場合、主催者には新聞社やテレビ局が名を連ねるが、百貨展サイドが主体となって企画から実務までを取り仕切るケースもある。

 日本で欧米型の百貨店が登場したのは明治末のことであるが、百貨店が販売を目的としない文化的な催し物を積極的に行うようになったのは戦後のことであり、その中には1951年の「現代フランス美術展 サロン・ド・メェ日本展」(日本橋高島屋)のように日本の美術家たちに多大な影響を与えた展覧会もあった。古代から現代までの美術展をはじめ、写真展、児童画展、企業や業界団体による産業展、漫画展、古代文明展、いけばな展、グラフィック・デザイン展など非常に幅広いジャンルの展覧会が歴史的に開催されてきた。

 百貨店が擁する催事場は文化催事と物販催事を兼ねるのが通常だったが、1975年開館の西武美術館が文化催事の専用施設に対して初めて「美術館」の名称を用い、先鋭的な現代美術展を数多く開催した。以降、新宿の伊勢丹美術館、横浜のそごう美術館、渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム、八重洲の大丸ミュージアム東京、新宿の小田急美術館、池袋の東武美術館などが相次いで開館するも、90年代のバブル崩壊後は多くの百貨店美術館が閉館を余儀なくされた。

文=中島水緒

参考文献
志賀健二郎『百貨店の展覧会 昭和のみせもの1945−1988』(筑摩書房、2018)
新見隆ほか『アートマネージメントを学ぶ』(武蔵野美術大学出版局、2018)