ART WIKI
ホール・アース・カタログ
Whole Earth Catalog
アメリカの編集者、スチュアート・ブランドによって1968年に創刊され、継続的に発行された出版物。発行元は、サンフランシスコの非営利団体ポートラ・インスティテュート。通常カタログ号とは別に『サプリメント』と呼ばれる冊子も発行され、年2回という通常号の刊行ペースを補った。
『ホール・アース・カタログ』(以下『WEC』)は、数々の書籍や道具、情報がカテゴリー別に分類され、それらを紹介する複数の記事が併置される誌面構成をとった。品目の掲載基準は、「道具として有益であること」「自主教育に関連すること」「高品質、もしくは低価格であること」「郵送で容易に入手できること」の4点。掲載された商品は、カタログに挟み込みされた申込用紙を使用して、発売元から購入することもできた。
『WEC』の構想は、当時全盛を迎えていたカウンターカルチャーとの接触を通じて練り上げられたものである。それは、支配的な体制や文化形式から離れ、オルタナティブな生活環境・生活様式を志向するヒッピーたちの存在が念頭に置かれた、状況的な性格の強い書物であった。想定されたカタログの役割は、コミューン生活における自給自足に必要な道具、実用知識へのアクセスを提供することであり、掲載品目は読者や編集スタッフの体験や提言を毎号ごとにフィードバックし、編み直された。
『全地球カタログ』の意味が示唆するように、『WEC』のコンセプトは、アメリカの工学者・発明家であり、「宇宙船地球号」の概念を提唱した思想家としても知られる、バックミンスター・フラーからの決定的な影響を反映したものである。地球環境やその限られた資源のなかでいかに生き延びるか、という課題は、「最小の資源で最大の効果を得る」ことを優れたデザイン設計の条件とする、フラーの工学概念と結びつくものである。この点は『WEC』が、自然地帯に開拓されたコミューンで実践される、自立的な生活や精神活動のために有益な諸情報の索引として意図され、DIY的なサバイバル志向を体現する出版物であった事実にも深く関連している。
71年に発行された最終号『The Last Whole Earth Catalog』は150万部を超えるベストセラーとなり、全米図書賞を受賞。その後もアップデート版や続刊の発行が、断続的にではあるが続くこととなった。以降ブランドの活動は、『CoEvolution Quarterly』の創刊(1974)や、コンピュータ・ネットワークによる電子掲示板サービス「WELL(Whole Earth 'Lectronic Link)」の運営(1985〜)へと展開していく。こうした流れのなかで、「ホール・アース」プロジェクトは、コミューンへの退却を必ずしも前提としないものへと変貌していった。
2005年、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で行なったスピーチの中で、『Whole Earth Epilog』(1974)に記されていた言葉 「Stay hungry. Stay foolish.」 を引用し、話題を呼んだ。また11年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)で『WEC』に焦点化した「Access to Tools」展が開催されるなど、再評価の動きが注目される。現在、『WEC』の公式アーカイブサイトでは、バックナンバーのPDFが購入可能となっている。
『ホール・アース・カタログ』(以下『WEC』)は、数々の書籍や道具、情報がカテゴリー別に分類され、それらを紹介する複数の記事が併置される誌面構成をとった。品目の掲載基準は、「道具として有益であること」「自主教育に関連すること」「高品質、もしくは低価格であること」「郵送で容易に入手できること」の4点。掲載された商品は、カタログに挟み込みされた申込用紙を使用して、発売元から購入することもできた。
『WEC』の構想は、当時全盛を迎えていたカウンターカルチャーとの接触を通じて練り上げられたものである。それは、支配的な体制や文化形式から離れ、オルタナティブな生活環境・生活様式を志向するヒッピーたちの存在が念頭に置かれた、状況的な性格の強い書物であった。想定されたカタログの役割は、コミューン生活における自給自足に必要な道具、実用知識へのアクセスを提供することであり、掲載品目は読者や編集スタッフの体験や提言を毎号ごとにフィードバックし、編み直された。
『全地球カタログ』の意味が示唆するように、『WEC』のコンセプトは、アメリカの工学者・発明家であり、「宇宙船地球号」の概念を提唱した思想家としても知られる、バックミンスター・フラーからの決定的な影響を反映したものである。地球環境やその限られた資源のなかでいかに生き延びるか、という課題は、「最小の資源で最大の効果を得る」ことを優れたデザイン設計の条件とする、フラーの工学概念と結びつくものである。この点は『WEC』が、自然地帯に開拓されたコミューンで実践される、自立的な生活や精神活動のために有益な諸情報の索引として意図され、DIY的なサバイバル志向を体現する出版物であった事実にも深く関連している。
71年に発行された最終号『The Last Whole Earth Catalog』は150万部を超えるベストセラーとなり、全米図書賞を受賞。その後もアップデート版や続刊の発行が、断続的にではあるが続くこととなった。以降ブランドの活動は、『CoEvolution Quarterly』の創刊(1974)や、コンピュータ・ネットワークによる電子掲示板サービス「WELL(Whole Earth 'Lectronic Link)」の運営(1985〜)へと展開していく。こうした流れのなかで、「ホール・アース」プロジェクトは、コミューンへの退却を必ずしも前提としないものへと変貌していった。
2005年、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で行なったスピーチの中で、『Whole Earth Epilog』(1974)に記されていた言葉 「Stay hungry. Stay foolish.」 を引用し、話題を呼んだ。また11年にはニューヨーク近代美術館(MoMA)で『WEC』に焦点化した「Access to Tools」展が開催されるなど、再評価の動きが注目される。現在、『WEC』の公式アーカイブサイトでは、バックナンバーのPDFが購入可能となっている。
参考文献
『SPECTATOR』第30号(幻冬舎、2014)
『SPECTATOR』第29号(幻冬舎、2013)
池田純一『ウェブ×ソーシャル×アメリカ 〈全球時代〉の構想力』(講談社、2011)