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フィールド・レコーディング

Field Recording

 レコーディングの原点は、1857年にフランスで特許が取得された「フォノトグラフ(phonautograph)」で、音の振幅を針状のものに伝え、煤のついた紙やガラス板をひっかいて残し、音声の波形を視覚化して記録した装置である。のちに、針で読み取った振幅の情報を、機械的に増幅する「蓄音機」が登場。エジソンが 77年に発明した「フォノグラフphonograph」(主に英国ではグラモフォンgramophone、日本では「蓄音機」)によって実際に録音再生することができるようになった。

 その後、スタジオ録音ではなく、屋外録音で自然音、人工音を収録する活動は、音楽民族学の研究調査での利用で大きな功績を収めている。民俗音楽の録音収集・映像記録研究者、アメリカ議会図書館のディレクターであったアラン・ローマックスが30〜40年代に行った民謡、黒人音楽の録音収集は、記録として貴重であるばかりでなく、その後の大衆音楽にも大きな影響を与えている。

 野外録音技術は、民俗学での学術的な研究に続いて、サウンドスケープの提唱者R.マリー・シェーファーが進めた生態学的な観点から、生物の環境と音を研究する音響生態学でも重要な役割を果たしている。さらにこれらの研究分野の延長線では、生物音楽学、進化音楽学、神経音楽学、比較音楽学などの分野が生み出されている。

 フィールド・レコーディングでは、写真撮影を意味するフォトグラフィにちなみ、屋外録音することを「フォノグラフィ」とも呼ぶ。自然音、人工音のフィールド・レコーディングは、「テープレコーダー」出現以後の音楽表現技術のひとつとして扱われている。50年代では、ピエール・シェフェールらのミュージック・コンクレートをはじめ、実験音楽、その後のアンビエント・ミュージックなどで使用されていた。現在はポップスでもサンプリングや音響合成と組み合わされて多用されている。

「テープレコーダー」はまた、映画、映像あるいはテレビ、ラジオ放送でも音響技術として広く利用されており、とくにラジオではラジオドキュメンタリー分野で用いられている。デジタル化によって高性能マイクやレコーダー、編集ならびに再生技術も進歩が著しく、フィールド・レコーディング技術の可能性は広がっている。

 クリス・ワトソン、ヤニック・ダービー、ヤナ・ウィンデレンなど、フィールド・レコーディング技術を使ったサウンド・アーティストが活躍。またスチュアート・フォークスが主催する「Cities and Memory」は、世界各地で行われたフィールド・レコーディングを駆使した作品をストリーミングやメディアで配給している。

文=沖啓介

参考文献
『Animal Music: Sound and Song in the Natural World』(トビアス・フィッシャー、ララ・コーリー編、Strange Attractor Press、2015)
デイヴィッド・コープ『現代音楽キーワード事典』(石田一志、三橋圭介、瀬尾史穂訳、春秋社、2011)
キャシー・レーン、アンガス・カーライル『In The Field: The Art of Field Recording』(Uniformbooks、2011)
Cities and Memory(https://citiesandmemory.com